| 夏休みに入ったその日というのは、やはり夏真っ盛りでとてもじゃないが外周で1日を費やすのは体に毒だ。 仕方ないので、その日は早めに上がることにした。 と言っても、全体練習を早めに終えるだけであって、は練習試合が終わったら体育館で練習をしようと虎視眈々と狙っている。 とりあえず、日陰になっている渡り廊下で筋トレをしたり、陸上部に混ざって短距離を走りこんだりと、今できる練習を続ける。 そして、副部長でありのブレーキ役のはそれを見学していた。 「そろそろ終わるんじゃないの?」 に声をかけられて体育館に向かうと確かに終わったらしく、翔陽のバスケ部員たちが体育館から出て行った。 ふと、がその一団を見たらエースと紹介されていた生徒、確か、翔陽のエースは藤真とかいったと思うが、彼が興味深そうにに視線を向けている。 「珍獣だよねぇ」 その視線の孕んでいる感情を読み取ったはその意見に同意し、苦笑した。 そして、体育館に入ると予想通りというか... 「ダブルスコアで負けてるってどういうこと?!寧ろ100点ゲーム?!」 「だから、ムリっつったろ!」 「そうやって最初から諦めてるから100点ゲームなんでしょう!?」 「うるせぇ!お前なんか、未だかつて試合に勝った事ないだろうが!!」 そのとおり! は心の中で深く頷いた。 女バスは公式試合はもちろん、練習試合にも勝った事がない。 「うちは、練習試合くらいなら勝った事あるからな!」 さて、どう反論するのかな? は興味深く見守る。 他の部員たちからは「止めてくれよ」という視線がこれでもかと向けられているが、まだ止める段階ではない。というか、面白い。 「そ..そんな過去の栄光にいつまでもしがみついているからこうやって簡単に負けちゃうのよ!」 練習試合での辛勝を『過去の栄光』と来たか... 「ふん!お前がいくら吼えても痛くも痒くもないぜ。その『過去の栄光』すらないお前にな!」 ああ、コイツにとっても『過去の栄光』なんだなぁ... 「、すまんが...」 とうとう顧問が助けを求めた。 は肩を竦めて「」と声をかける。 「練習するんでしょ。男子はとっととハーフコート分片付けて」 周囲の部員たちに声をかけ、の指示に従い、男子バスケ部員たちはてきぱきと片づけをする。 触らぬ神に祟りなし。 というか、大魔神が鎮まっている今の内に撤収作業をしなければ...! そんな感じで部員たちの心はひとつになり、あっという間に片づけが終わった。 「先生は、まだまだ残りますよね?」 ニコリと微笑んでが言う。 「...うん」 早く帰りたかったなぁ... 早い時間の帰宅を諦め、顧問は頷き、それを満足そうに見たがに顔を向ける。 「練習できるよ」 「うん」 機嫌が直った。 ああ、この猛獣使いが居てくれなかったらこの顧問、もしかしたら心労で倒れていたかも... 「おさき!」と声をかけながら帰っていく男バス部員たちはそんなことを思いながらそそくさと体育館を後にした。 「あれ?も残るの?」 「うん、今日は動いた気がしないからね」 の言葉に「だよね」と同意して、はのびのびとコートの中を駆けた。 「なあ、何で帰らねぇの?」 正門前に立っている長身軍団は非常に目立つ。 「んー、ああ」 歯切れ悪く応える藤真に一緒に残ってみた同級生たちは溜息を吐いた。 「体育館、行ってみるか?」 花形の提案に「だなぁ」と同意し、藤真たちは先ほど練習試合の会場となった体育館へと足を向けた。 「んー、何が悪いんだろね」 腕を組んでが呟く。 「先生って、いっつも見てくれないもんねぇ」 は少し不満そうにそういった。 元々、顧問は監督も兼務しているが、監督らしいことをしてくれたことはない。用は、引率の先生なのだ。 部活動として認めていることから顧問が居るので、空いている先生がその椅子に座らされたといったところなのだ。 実際、あの顧問は中学から大学まで一度もバスケをしたことがないと言っていた。体育の授業意外では。 「、試合のビデオとか見たがらないもんねぇ」 「見てたら動きたくなるから、結局集中できないんだもん」 そう言ってまたシュートをする。 リングには当たるのだが... たしか、あのボードの黒い線に当てたら入りやすいと聞いたことがあるが、線に当てることが至難の業だ。 「肘開きすぎ」 不意に聞こえた声に驚いてとは振り向く。 何故か、翔陽高校バスケット部のエースとそのお供が体育館の中にいた。 「帰ったんじゃないの?!」 「あー、うん」歯切れの悪い藤真に「忘れ物?」とが重ねて問う。 「あ、うん。そう。忘れたんだ..うん」 「先生ならまだ職員室に居るから、何か忘れ物があったら持ってるかも。聞いてこようか?」 意外と親切。 いやいや、違う。 「いや、いいよ」 「遠慮しなくて良いから!」 そういったかと思うとはそのまま体育館から出て行った。 「足、はえぇな...」 「陸上部から『そんな弱小バスケ部辞めてウチに来てよ!全国いけるよ!』っていう熱烈なスカウトを受けてるくらいの足の速さはあるわよ?」 が見上げてそう応えた。 「忘れ物、ウソでしょ?」 が出て行ったドアを眺めながらが言う。 「あー、うん」 「ま、を待ってるうちにバッグの中をもっかい見たらあったっていうのが妥当ね」 「そうする」 肩を落としていう藤真にはクスクスと笑った。 |
桜風
10.9.15
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