飛び出せ、青春!! 18





1日目のスキー教室が終わり、入浴と食事が終了した。

「何か、お腹すいたね」

同室のクラスメイトが言う。

「じゃあ、何か買ってこようよ」

「お菓子とか、良いのないよね?」

「最悪、お土産のお菓子を皆で買ってきて食べたらいいよ」

そんな会話で話がまとまり、たちは本館に向かった。

自分たちが泊まっているのは別館だが、今の時間なら本館にも行っていいという事になっている。


本館に行くと男子ばかりだ。

よく見ると自分の知らない男子が多く、翔陽の生徒だと気が付いた。

ああ、男子校だもんな...

は納得して売店に足を向ける。

、買い食いか?」

声を掛けられて振り返ると藤真だ。

「うん、お腹すいたねって皆で」

さんは?」

先ほどああいうことがあったからと極力一緒に行動をしているかと思ったが...

は部屋割りが違うから」

はあっさり返す。

まあ、ああいうことがあって態々の元へ足を運ぶような子ではなかったな、と藤真は納得した。

の背中に隠れるようなことをせず、の見ていないところで女子のドロドロに『目には目を』で返していそうな性格だ。彼女はきっとプライドが高い。

「てか、藤真もなんだね...」

呆れたようなの言葉に「なにが?」と眉間に皺を寄せて藤真が問う。

「だって、ロビーには翔陽がたくさん居て、正直ちょい怖いよ?」

と返す。

「あいつらはそうかも知んないけど、オレはお前と同じく腹減り」

そう言って手に持っていたみやげ物を軽く掲げた。

「やっぱ、こういうのしかないね」

「まあ、なー」そう答えて藤真は躊躇ったように視線を彷徨わせた。

「なあ、ちょい時間良いか?」

藤真の言葉に不思議そうにが首を傾げる。

「皆に言ってくる」

そう言ってクラスメイトの元へと行き、先に帰ってもらった。


「何て?」

「へ?」

「いや、さっき。クラスの子達だろう?」

「ああ、うん。『バスケの話があるから、先に帰ってて』って」

それでクラスメイト達にも通じるんだ...

藤真は苦笑して、ロビーの端に向かい、もそれに続いた。

本当はもっと人の少ないところで話がしたかったのだが...

そう思いつつも、学校行事中に姿を晦ますわけには行かないと諦める。

「で?何?」

場所的に落ち着いたと判断してが話を切り出した。何だか、藤真は切り出しにくそうな表情を浮かべていたので自分が話を切り出してみたのだ。

ってこういうところは気が利くと言うか、気が付くよな...

大抵鈍いのだが、気遣いがある。

「実はさ、オレ..監督もしなくちゃいけなくなったんだ。バスケ部」

はきょとんとした。

暫く藤真の口にした言葉の意味を考え、「どういうこと?」と聞き返した。自分で整理をつけることが出来なかったようだ。

「や、その言葉通り」

「だって、藤真。まだ卒業もして無いじゃん」

真顔で返された。

藤真は苦笑して「うん」と頷く。

「今までの監督さんは?」

いたはずだ。だって、冬の選抜予選にも来ていた。

「交通事故に遭われたんだ。それで入院。退院ができるのはたぶん春だろうけど、もう高校のバスケ部の監督っていう体力の要ることは出来ないって学校側に申し込まれたんだって。オレも、見舞いに行ったらそういわれた」

「学校の、体育の先生は?!」

が問うが、藤真は首を横に振る。

「さすがに、全国常連のウチの監督ってビビるみたいなんだよな。顧問すら難しかったって聞いてる」

遠征が多いからとか藤真が言っているが、の頭にはどうにもその言葉が入ってこない。

「卒業生は?たくさんいるでしょ?」

「選手として『有力』だった人は今でもバスケしてるからムリだし、そうじゃない人は受けてくれっこないって」

苦笑して藤真が言う。選手層は厚かった。在学中はバスケを続けていたが、それでも卒業後もその水準を保っている人は少ない。

「おかしいよ」

ポツリとが呟く。

藤真は静かにを見た。

「だって、藤真はまだ子供じゃん。キャプテンとしてまとめる以上のことをしなきゃいけないって、おかしいよ」

「...これ、あいつらにはナイショな?勿論、さんにも」

そう言って藤真は目を瞑った。

「オレさ、ホントは結構怖いんだよな。ほら、今が言ったとおりオレも思ったんだよ。オレが下手なことしたらあいつらの全国、消えるんじゃないかとか。何か、重いんだよな」

暫く沈黙の時間が流れた。

「あいつらが頼りにならないとか、そういうことを言ってるんじゃないんだ。オレが監督もしなくちゃいけなくなったとき、校長のとこまで抗議しに行ってくれたし。けど、それ以外ないってことになって、オレが折れたからさ。そしたら、ちゃんとサポートするって言ってくれてるし、あいつらを信頼してないってワケじゃないけど。でも、やっぱり..な」

心の葛藤がその表情に表れている。

は言葉を探した。

探したが、やっぱり見つからない。

こんなことならちゃんと学校の授業真面目に受けておけばよかった...!

「あ、や。悪い。ごめん」

突然藤真が謝る。

「や..ホント。ごめん」

不思議に思って藤真を見上げると困った表情を浮かべた藤真が手を伸ばしてきた。

親指での目尻を拭う。

慌てては自分の目をこする。

「ごめん」とも謝った。

「ごめん。わたし、全然勉強してないから何を言ったら一番良いのかがわかんなくて。そう思ったらなんか悔しくなって..ごめん。藤真、悪くないよ。わたしがバカなだけだから」

そう言って俯いたの頭にぽんと藤真は手を載せた。

「悪い、ごめん。ありがとう」

その藤真の言葉が不思議でが顔を上げると先ほど藤真が売店で購入したという土産物が目の前に差し出されていた。

「これ、やるよ」

「藤真、お腹が空いたから売店に出てきてたんじゃないの?」

不思議そうにが言うと

「や、ホントは腹ペコのが出てくるんじゃないかって待ってた。これ、やるよ」

が思わずそれを受け取ると「ありがとな」といって藤真は去っていく。


たぶん、自分は心からの言葉がほしかったんだと思う。

花形たちには言えない言葉を口にして、それに対して上っ面の言葉ではなく、心からの言葉。のあの言葉は、話をあわせるだけの同情ではない。心から大人を許せないと思って、そして彼女の全力で考えてくれて結果、言葉が見つからなかったのだ。

彼女はまっすぐに物事を捉えて、そのまままっすぐに返そうとする。

だから、自分はに話をした。彼女の反応を幼いと笑う人がいるかもしれないが、それに救われることだってある。

現に、自分はお陰で腹が括れた。そのためだけに彼女が知らなくてもいいことを口にして訴えた。

「ごめんな、

でも、やっぱり。どうしたって自分の都合で彼女を泣かせてしまったことは変わらない。

結構後悔するもんだな...

今でも浮かぶの泣き顔に藤真は表情を曇らせた。









桜風
11.1.5


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