君の隣で 1





真新しい制服に身を包んで鏡の前に立つ。

くるりと1回転する。スカートがふわりと広がって、やがて落ち着く。

「よし」

今日からあたしは海南大附属高等学校での3年間が始まる。

ちゃーん。ごはんよー」

1階のキッチンからお母さんがあたしを呼ぶ。

「はーい」

鞄を持って階段を駆け下りた。

「今日の入学式、お母さんも行くからね」

「お父さんは仕事でいけないんだよ。ごめんね...」

ションボリとお父さんが言う。

「や、いいよ。ありがとう」

高校生にもなって親が来ないことで拗ねたりしないよ。

朝食を済ませて家を出る。

これからの高校生活に期待8割不安2割。

通学路から既に新鮮に感じる。

のんびり春の風景を楽しんでいたら、時計を見て大慌て。

入学式から遅刻って、やっぱりマズイよね...


息を切らせて掲示板で自分のクラスを確認して、また講堂へと走る。

本当は出席番号順に並ぶんだろうからそういうのを一々確認したらいいんだろうけど、あたしは遅れてきたので空いてる椅子に座った。

正直、入学式などの『式』がつくものは退屈で苦手だ。静かに誰かの長ったらしい話を聞くなんて面倒くさい。

あたしの隣に座っている男子はかなり背が高い。

バレーかバスケか...?

そうっと顔を見上げた。

彼もあたしの方を見ていて、目が合い

「あー!」

と思わず声が出てしまった。

『そこ、静かにしなさい』

と檀上の誰かにそう注意された。

クスクスと周囲から笑い声が聞こえる。

肩を竦ませて俯く。

マイクで注意することないじゃん。

因みに隣の大きな男子もクスクス笑っている。アナタのせいだと言うのに...

、だよね?」

声を落として聞いてきた。

「うん。そっちは宗、だよね?」

「うん。久しぶり」

「約3年ぶりだね」

顔を見合わせてこっそり笑った。


式が終わってやっと普通に会話が出来るようになる。

「でも、ホント久しぶり」

「本当だよね。ってば凄く半端な時期に引っ越したもんなー」

頭の後ろでてを組みながら宗が言う。これは昔からの彼のクセ。

「ねー。マイホームに憧れるのは構わないけど、もうちょっと時期を考えてほしかったよ」

そうぼやくと宗は噴出した。

「おじさんたち、元気?」

「元気よ。なんか、昔と全然ノリが変わらないんだよね。そういえば、宗。家遠いのにどうやって通うの?」


あたしが宗と呼ぶ人物、フルネームは神宗一郎。あたしたちはお母さんのお腹の中に居るときからの幼馴染だ。

以前、今の家に引っ越す前はマンションに住んでいてそのお隣さんが宗の家。

何をするのもずっと一緒だった。

中学に上がってすぐに父が

「憧れのマイホーム購入決定!夏休みに引っ越そうな」

といきなり言ってきた。

突然すぎてムカついて、2・3日宗の家に家出した。

結局家出先がお隣だからとうちの両親は安心してた上に、何故か温かく見守られてしまったけど...

それから遠いこの街に引っ越してきた。

確かにマイホームって空間はステキだけど。

でも、やっぱり納得いかないところもあった。

ずっと一緒だった宗と離れ離れになるってのが一番納得のいかないところだったけど。


「俺は、一人暮しを始めたんだ」

突然の宗の言葉に思わず絶句してしまう。

「え、だって。宗はバスケ部に入るんでしょ?」

「うん。そうだよ」

「練習きついよ、きっと」

「そうだね」

笑顔を崩すことなくそう言う。流石だ。昔から宗は大変な事を大変と言わない。

実際、何だかんだでその大変な事をこなしていくんだから。

「まあ、宗なら大丈夫かな?大変だったら言ってね。お母さんが喜んでお世話すると思うから」

「ホント?」と言いながら宗は笑う。

「そういえば、は引っ越した先の中学でもバスケ続けたの?」

「続けた。下手は下手なりに楽しい部活動だったよ」

「そっかー。でも、此処って女子はないでしょ?」

「ないね。でも、あたし、選手は中学でやめるつもりだったから」

そう言うと宗は首を傾げた。

「高校に入ったら、マネージャーやってみたいって思ってたの」

「この学校のバスケ部のマネージャーって大変だと思うよ」

「うん、そうだね」

さっき、宗が言ったような調子で答えてみた。

宗はちょっと目を丸くして、笑う。

「そっか。じゃあ、一緒に頑張ろう」

「うん、これからもまたヨロシクね」

宗の隣は何だか懐かしい空気だった。









桜風
11.12.21


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