君の隣で 2





新しい部屋。

実家に比べると当たり前だけど、狭い。それでも、俺のこれからの3年間はこの部屋が俺の城になる。

中学のときは学ランで、ブレザーを着るのは慣れていない。

ネクタイの結び方を親に習って練習した。

真新しい制服に袖を通して、自転車で学校へ向かう。


入学式の会場は講堂だけど、折角早く来たのだからバスケ部専用の体育館を見に行った。

さすが海南大附属高校バスケ部。専用の体育館まで整備されているのは、やはり常にトップを走っている王者への期待か...

此処で、俺は何処までいけるのだろう?

どんなやつが集まって、どんな先輩たちがいて、練習があって。

少し震えた。

初めてかもしれない、武者震いなんて。

挫折はあるかもしれないけど、絶対に投げ出さない。

期待と不安が入り混じる俺の心に小さく笑い、そして、講堂へと向かった。


一応、出席番号順に並ぶように指示されたけど、新入生が揃って一度に集まるわけじゃないし、そんなの無駄だと思う。

実際、適当に座った俺の隣には遅刻ぎりぎりでやって来た女子がいた。

けど、どこかで見たことがあるような...?

壇上では『お偉いさん』と呼ばれる人が色々長々と祝辞というものを述べているけど、俺としては「入学おめでとう。以上」くらいが理想だ。

退屈になって、もう1度俺の隣に座った子を見る。

彼女も顔を上げた。

驚いて声が出ない俺とは反対で、彼女は大きな声で「あー!」っと叫んだ。

そして、

『そこ、静かにしなさい』

と祝辞を述べている誰かにマイクで注意された。

彼女はずかしそうに肩を竦めて俯く。

周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。俺も、笑った。

でも、俺は可笑しくて笑ったんじゃない。嬉しくて、笑ったんだ。

、だよね?」

声を落として聞いた。2度注意されるのは流石にだって恥ずかしいだろうし。

「うん。そっちは宗、だよね?」

昔と変わらない呼び名で俺を呼ぶ。

「うん。久しぶり」

「約3年ぶりだね」

顔を見合わせてこっそり笑った。

本当に、は変わっていない。


式が終わってやっと普通に会話が出来るようになる。

「でも、ホント久しぶり」

俺を見上げてが言う。ってこんなに小さかったっけ?

「本当だよね。ってば凄く半端な時期に引っ越したもんなー」

「ねー。マイホームに憧れるのは構わないけど、もうちょっと時期を考えてほしかったよ」

ちょっと噴出してしまった。の両親は結構思いつきとノリで生きているっぽい人たちだから。

「おじさんたち、元気?」

「元気よ。なんか、昔と全然ノリが変わらないんだよね。そういえば、宗。家遠いのにどうやって通うの?」


俺とは幼馴染で、お互い母さんのお腹にいたときからの付き合いだ。

昔はも俺の実家のあるマンションに住んでいたけど、突然のお父さんがマイホーム購入の夢の実現を目指した。というか、実現した。本当に突然だった。

慣れているとは言え、流石にそのときにはも許せなかったらしく、何故かウチに家出に来た。家出だって。

でも、家出先が隣のウチだって分かってたの両親は暖かく見守っていたようで。

それを知ったの愚痴は結構長くて、聞かされた俺は寝不足になったけど、最後に

「本当は、宗と離れ離れになるのがイヤなんだけどね...」

と寂しそうに笑った。

その夏に、は引っ越した。


「俺は、一人暮しを始めたんだ」

俺がそう言うと、驚いたように目を見開く。

「え、だって。宗はバスケ部に入るんでしょ?」

「うん。そうだよ」

「練習きついよ、きっと」

「そうだね」

それを分かってて選んだ事だから。

「まあ、宗なら大丈夫かな?大変だったら言ってね。お母さんが喜んでお世話すると思うから」

「ホント?」

それは心強い。

「そういえば、は引っ越した先の中学でもバスケ続けたの?」

「続けた。下手は下手なりに楽しい部活動だったよ」

「そっかー。でも、此処って女子はないでしょ?」

「ないね。でも、あたし、選手は中学でやめるつもりだったから」

そうなんだ?続ければいいのに...

「高校に入ったら、マネージャーやってみたいって思ってたの」

意外な言葉だ。でも、

「この学校のバスケ部のマネージャーって大変だと思うよ」

そう言うと

「うん、そうだね」

と笑顔で何でもないことのように言った。

「そっか。じゃあ、一緒に頑張ろう」

「うん、これからもまたヨロシクね」

の隣は昔と変わらなくて、何だかホッとした。









桜風
11.12.28


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