君の隣で 3






海南大附属高校は15年連続で神奈川の予選で優勝して全国大会に出場している、いわばバスケの名門校だ。

紫の応援旗には金色で『常勝』とある。紫に金って正に王者って感じだ。

あたしはそんな王者海南のマネージャーになろうとしている。

マネージャーってのに憧れたのはあたしのいとこが中学のときからバスケ部のマネージャーだったから。

彼女は楽しそうに走っていた。

それを何度か見て、そして、話を聞いてそういうのも楽しそうだと思った。

だから、女子部の無い海南大附属に通う事になっても仕方ないかなって諦める事ができた。

ボールとリングがあれば、やりたいときに出来るんだから。


「神宗一郎です。センターです。よろしくお願いします」

部活初日、宗は自己紹介でそう言った。

あたしが引っ越したのは中学に入って間もないから宗のポジションなんて知らない。大会も男子のは見に行っていなかったしなぁ...

マネージャーも自己紹介をしろと言われて、あたし以外にも1年が3人つまりマネージャー志望は4人居た。

みんな可愛い子だなって思う。

です。宜しくお願いします」

中学の時の話とか面倒くさいので端折った。大した選手でもなかったしね。


そして、部活が始まって1週間。

部員は半数以下に減り、そして、マネージャーも居なくなった。

え、まだ1週間だよ!?

目の前には山積みの仕事。

思わず遠い目をしてしまう。

ふと、体育館の中から監督の声が聞こえた。

「お前にセンターは到底無理だ」

それを言われたのが誰かという事は何となく想像できた。

入り口から中を覗くと宗は少し先のリングを見つめていた。


1年は練習が終わった後、モップ掛けとボール磨きのノルマが課されている。

先輩が帰った後、それをサボる人が無くはない。

先輩方もそれを知っているようで「そういうやつはユニフォームは着れないし、どうせ辞めるんだ」と言っていた。

実際、ポツポツと人は減っていってる。

あたしは自分の仕事が終わったら宗のシューティング練習を眺めながらボールを磨いた。

適当に磨いている人も居るから、そういうボールを探して磨くのだ。

昔さんざんやってたから懐かしい。

、もう遅いから帰れば?折角今日は早めに終わったのに...」

「うん、もうちょっと」

あの日以来、皆が帰った後、宗はシューティング練習をするようになった。

1日500本。それは凄く大変な事。全体の練習もきつくて体育館の裏の側溝に吐いてる人達も居るほどだ。

そのあとにシューティングと言ったら、どれだけ体力があるんだろうって話になる。


ふと顔を上げれば入り口に牧さんが立っていて、目が合うとあたしを手招きする。

何だろう?

宗の邪魔をしないように静かに移動をして牧さんの元へ向かった。

「遅くまで頑張るな」

「神、ですか?」

「神もだが、もだ。いつもこれくらいか?」

「あたしが遅いときもありますし、同じくらいのときはありますけど。大抵この時間は越えてますね」

そう答えると「そうか」と言う。

「きれいなシュートフォームだな」

体育館の中の宗を見て牧さんが言う。

「ですよね。あたしも高校に入って初めて見たときはビックリしました」

「幼馴染だそうだな」

牧さんが見下ろしてそう言う。

「はい。付き合いは長いですよ」

そう言って笑うと牧さんも小さく笑う。

「だったら、神と呼ばずに俺の前でも『宗』っていつもどおりに呼んだらどうだ?」

と言われた。

突然だな、と思って笑ってしまうと少しムッとした表情をする。

「何か可笑しなことを言ったか?」

「いいえ。何か、ちょっと嬉しかったので。ごめんなさい」

「...嬉しかったと言うなら、言葉が違うと思うんだがな」

牧さんがそう言う。

「ありがとうございます」

そう言うと牧さんは微笑んだ。

「あれ、牧さん...」

「おう」

「もしかして、終わった?」

「うん、終わったよ」

宗の返事を聞いてモップを取ってくる。

「ラーメン食べて帰るか?」

モップ掛けをしているあたしたちに牧さんがそう言う。

あたしと宗は顔を見合わせて「お腹空きましたー」って声を合わせて言った。

牧さんは目を丸くした後笑って、「本当に仲がいいんだな」と言う。

あたしたちはもう1回顔を見合わせて笑った。









桜風
12.1.4


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