君の隣で 6






IH予選の1回戦があった次の日。

それぞれの見てきた試合結果を部の持っているトーナメント表に書き入れた。

「えー...」

指で辿って探す。

「何を探しているんだ、

不意に監督に声を掛けられた。

「あ。よろしくお願いします」

監督に挨拶をして「湘北って、どのブロックでしたか?」と聞いてみた。

「湘北は此処だ」

と後ろから色の黒い腕がにゅっと伸びてきてトーナメント表を指した。

「あ、負けてる」

「赤木はいい選手なんだがな。周りに恵まれていない」

牧さんがそう言った。牧さんは確かこの会場に行ってたんだ。

「湘北がどうした?」

「いとこがマネージャーをやってるんですよ。で、どうだったのかな?って思って」

「今のところ、あまり良いチームではないな」

牧さんの言葉が重かった。


IH予選が始まる前、親戚で集まることがあった。

そのとき、同じ年のいとこの彩子と色々話した。

「ホントに、海南とはね...」

呆れたように呟かれた。

「まあ、うん。そうなっちゃった」

「しかも、バスケ部のマネージャーって...」

「や。ホラ。中学のとき彩子が男バスのマネージャーを凄く楽しそうにしてたから。やってみたいなって思って」

そう言うと「照れるわね」と苦笑いした。

「海南、今年はどう?」

「強いんじゃない?みんな凄く練習してるし。あ、そうそう。昔あたしに幼馴染いたじゃない?」

「たしか、宗ちゃんって言ってたわよね?」

「うん。海南に居たんだよ。ビックリだった」

「でも、遠いわよね?」

「うん。ひとり暮らししてるんだって」

「へー。大変そう」

「だよね。そういえば、今年の湘北は?」

「赤木さんと小暮さんっていう先輩がいるんだけどね。練習を熱心にする先輩はその2人だったりするのよね...」

彩子は困った顔をして頭を振った。


そんな会話をしたから、気になっていたんだけど。やはりそういう結果になったのか...


それからIH予選が進み、シード校もトーナメントに現れた。

海南はその初戦を快勝して決勝リーグに進んだ。

体育館から出ると



と声がした。

振り返ったあたしの口からは「げ...」と声が漏れ、慌てて手で塞ぐ。

「久しぶりだな」

そう言うのは中学のとき、あたしが男バスで仲の良かった先輩の藤真先輩で、1歩近づいてくる。あたしは1歩離れる。だって、目が笑ってないんだもん。

「何で、海南バスケ部のジャージを着てるんだ?」

また1歩近づいてくる。だからあたしも1歩下がる。

「逃げんな」

「逃げます」

来る!

「宗、荷物お願い」

隣にいた宗に荷物を押し付けて駆け出した。

やはり予測どおり藤真先輩が追いかけてくる。

「待て、こら!」

「待ちません!!」

「何で海南の、バスケ部のマネなんてやってんだ!!」

「マネというものにちょっと興味があったんです!」

全力疾走で叫びながら会話をする。

誰かが「マネ、速ぇ...」と呟いていた。

つか、助けてよ!!

「お前、俺が何回翔陽に来いって電話したと思ってんだ!」

「たぶん3回くらい!」

「この俺が3回も電話したんだぞ!」

「光栄です!」

最近こんなに全力疾走をしたことがないから、段々足がもつれてきて

「うわ」

こけそうになった。

強い力で逆の方に持っていかれて何とか地面と仲良しにならずに済んだ。

「だから、逃げんなっつっただろ?」

肩で息をしながらそう言ったのは、藤真先輩。目の前の先輩の胸がゆっくり呼吸を整えるように動いている。

間一髪で藤真先輩が腕を掴んでこけるのを防いでくれたようだ。

「だって、藤真先輩ってば凄く怒った顔をしてたじゃないですか」

「そりゃ怒るだろう?女バスが無いから翔陽はイヤなのかと思って諦めたら同じく女バスのない海南に行ってんだから。だったら翔陽で良いだろう。海南よりは遠いけど、の家からはそんなに遠くないし。中学のときも、お前全然海南の話してなかっただろうが」

拗ねてるようにそう言った。

「いや。ホントはあたしも海南に行く気は無かったんですよ」

そう言うと藤真先輩の眉間に深く皺が刻まれる。

「どういうコトだ?」

「うちの父の母校が海南だったんですよ。で、中3の進路希望調査のとき、父が、『海南、受けるだけでもしてくれないかなぁ』って言うから。取り敢えず、第3希望の欄に『海南大附属高校』って書いたら、担任にプッて噴出されてちょっとムカついたんですよね」

「まあ、お前言うほど成績良くないもんな」

藤真先輩が何でもないことのように言う。余計なお世話だと思う。

「で、受験して合格して。仕事中だけと父にメールで合格したことを報告したら、その日のうちに社長にまで自分の娘は母校に通うことになったと宣言して回り、更に母は、海南の女子の制服は可愛いと言って大喜びをしてしまったため、海南以外に通うことは困難となりました。だって、高校行かないって言ったら結婚させられるところだったんですよ!もうめぼしいの見付けてるからって言われて。だったら、高校に行くしかないじゃないですか!?」

「相変わらずだな、おじさんたち」

と後ろで宗が言っていた。

そう、相変わらずだったのよ...

「ひとつ聞くぞ。他の志望校は?」

「湘北と翔陽です。因みに、翔陽が第2志望でした」

何だか気に食わないという表情で藤真先輩があたしを見る。

「翔陽には合格したんだろう?」

「落ちました」

夏だと言うのに、木枯らしが吹きぬけたような寒い空気になる。

「言いたかないが。普通入試のレベルが高いのは海南だろう?」

「皆そう言うんですよねぇ。でも、海南に受かって翔陽に落ちました」

「お前、もしかして裏口か?」

「あたしも一瞬そう思いましたけど、住宅ローンが残っている我が家にそんな余裕はないな、と」

藤真先輩はこれ見よがしに深ぁ―い溜息を吐いた。

「まあ、仕方ないか」

「はい!もうどうしようもありません」

笑顔で応えたら両方のほっぺをむにーんて伸ばされる。

「お前のその爽やかな笑顔がムカつく」

理不尽だ。

「ふふぃふぁへふはいっへ。はいはははふひふひふはいほふへふへ」

「はぁ?」

あたしの言ってる言葉が気になったのか手を離してくれた。

2・3歩下がって

「藤真先輩って。相変わらず理不尽大王ですね」

また追いかけられるかと思ったけど、そうなることはなく。

「だろ?良く分かってんな」

と言って目を眇めていった。

一緒に居た友達に声を掛けて帰っていく。

あたしは藤真先輩の背中を見送りながら、何となく一抹の不安を覚えた。









桜風
12.1.25


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