君の隣で 9





IHが終わって神奈川に帰ってきた。

いつもの部活も大変だけど、遠征先でのマネの仕事も大変で正直、家に着いたときにはぐったりしてた。


珍しくある休養日に出かけた。

ひさしぶりにのんびり過ごせる。

そう思って海岸沿いを歩いた。

すると、見たくないものが目に入り、更に合いたくない目まで合ってしまった。

ちゃん!」

と手をブンブン振ってるのはあの陵南のナンパ男、仙道。

無視して足を進めていると

ちゃーん!ー!!ハニー!!ジュテーム!!」

「うっさい!!」

思わず反応してしまった。

自分の敗北を悟り項垂れる。

顔を上げると仙道はにこりと笑って手招きをする。

相手にしてしまったあたしの負けだと悟り、仕方なく、凄くイヤだけと仕方なく仙道に向かって歩いた。

「何してんの?」

「釣り。こんなところでちゃんに逢えるなんて運命を感じない?」

「寧ろ呪われてるんじゃないかと思ったけどね、あたしは」

そう言ってあたしは仙道が側においているバケツを覗く。

何も入っていない。

「今来たトコ?」

「ううん、結構前から座ってるよ」

「ここ、魚いないの?」

と海を覗けばウロウロと魚が泳いでる。

「ヘタクソ」

仙道に言ってやった。

「じゃあ、ちゃんもやってみてよ」

と言って釣竿をあたしの手に握らせる。

「興味ないんだけど...」

「オレをバカにしたんだからそれなりの腕を見せてもらいたいって思ってもバチは当たらないと思うんだけどな」

そう言った。

仕方なく、仙道の隣に腰を下ろした。

間もなく、釣竿がぐいんと曲がる。

「え、何!?」

「もう掛かったの!?早っ!!」

そう言って仙道の大きな左手があたしの手に添えられて、そして右手はリールを巻いている。

後ろから抱きすくめられる形になって、不本意にもちょっとドキドキした。

海から上がった魚はピチピチと跳ねて水を散らす。

「うわ、」驚いて顔を背ければ至近距離、10センチ先に仙道の顔が合って別の意味で驚いた。

「あ、水散った?ごめん。大丈夫?」

今、声を出すな...

「大丈夫」

仙道がスッと離れ、魚をコンクリートの上に置いて針を取る。

ちゃんの家で食べる?」

仙道がそう言う。

「ううん。あたしまだ外をうろつく予定だから要らない」

「そうなんだ」と言って仙道は魚を海に返した。

「返しちゃうの?」

「まあね。オレもそろそろ練習に行かないと」

そう言って仙道は竿を畳み、そばに置いていた鞄を持ち上げる。

「冬の大会は陵南が優勝しちゃうかもよ?あ、オレに惚れて良いから。ちゃんは大歓迎」

そんなことを言う。

「仙道ってさ。自分の言動の胡散臭さに気付いてる?アンタ、アホみたいだよ?」

あたしが親切に忠告してあげても

「酷いなぁ」と笑うだけで全然変わらない。

「アンタさ。そんな軽口ばかり言ってたら本命の子に信じてもらえないよ?」

「うーん、それは困るなぁ。でも、実際信じてもらえそうにないよね、ちゃんに」

「そういう発言が胡散臭いって言ってるの、気付いて」

「つれないなぁ」

にへらと仙道が笑う。

バスケをしてるときと大違いだ。

「じゃあね」と言って道路に向かって歩き出した仙道が足を止めた。

「ねえ、ちゃん」

振り返らずにそう言う。

「オレ、かなりちゃんのこと気に入ってるから」

と言葉を区切って振り返る。

その目はさっきのような気の抜けたそれではなくて、

「覚悟しててね」

その言葉が恐ろしいくらい似合う獲物を狙った動物の目だった。

思わず唾を飲み込む。

「じゃあ、また」

そう言って仙道はもう振り返らなかった。

何だかちょっとがっかりした自分に、少しだけ困惑した。









桜風
12.2.15


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