| ちょっと海の匂いがするな、と思った。 顔に掛かった海水とか、少しの間潮風に曝されていたから仕方ないかなって思う。 そして、前方を行く人に目が止まった。 連絡を入れるべきか悩んだ結果、何もしなかった。 だから、偶然此処で会えたのならば声を掛けなくては、と思った。 「藤真先輩!」 先輩は驚いた顔で振り返る。 「こんにちは」 「おう。何だ、私服か。今日はバスケ部の練習は?」 「珍しく休養日です。自主練の日ですよ」 そう言うと藤真先輩が「そうか」と納得した。 「翔陽は?というか、藤真先輩は?」 「俺は、コレ」 と言っておでこの左側を指差す。 「頭?」 「違う!コレ!!抜糸に行ってたんだよ」 よく見ると本当に糸がない。 「あ、じゃあ。もう練習は出来るんですね」 「今日はダメだって言われたけどな」 そう言って苦笑いを浮かべた。 ずっと練習がしたくてうずうずしてたんだろうって思う。 「痛い、ですか?」 藤真先輩は驚いたようにあたしを見下ろして、イタズラっぽく笑う。 「いや、逆に痒い」 って。 「痒いんですか...」 「うん。ほら、キズって治ってるときが一番痒くならないか?かさぶたとか」 言われて「ああ!」と納得する。 「痒いですよね」 「そう。今、その状態」 そう言って手を額に持っていこうとしたから 「掻いちゃダメですよ」 と言って先輩の腕を掴んだ。全然手が回らずに掴みきれていない。 「あ、ごめんなさい」 先輩が凄く驚いた顔をしたから、失礼なことをしたかと思って慌てた。 「や、大丈夫だ。うん...」 そう言って足を進める。 「てか、。海の匂いがするぞ?」 「さっき釣りをしましたから」 藤真先輩は眉間に皺を寄せながら「はあ?」と聞いてくる。 さっきの出来事を話すと 「お前、仙道とも知り合いだったのか?!」 と聞かれた。 「はい。偶然会場でであって。まあ、最悪の出会いでしたけどね」 思い出しただけでもあの意味不明な行動にムカつく。 藤真先輩は「ふーん」と呟く。 「そういや。海南いいところまで行ったな」 「ホントにそう思ってますか?」 「一応、な」 憮然とそう言うからたぶん、本当にそう思ったんだって分かる。 「先輩、来年のIHがありますよ」 「今年の選抜もあるんだけどな」 半眼になって言われた。 知ってたけどね... 「冬は、...1校じゃないですか」 「だから、俺たち翔陽が行くんだろうが」 そう言って小突かれた。 痛い... 「先輩、女の子の頭を小突くなんて酷い!!」 「ああ、悪い悪い」 そう言いながら乱暴に頭に撫でる。 「もう!」と言いながら手ぐしで髪を落ち着ける。 「マネ、大変か?」 「まあ、それなりに。でも、アレですよね。翔陽に行かなくて良かったって思いますよ」 そう言うと藤真先輩の眉間に皺が寄る。 「だって、部員数半端じゃないでしょう?海南の方がまだマシでした」 「そんなの、1年に手伝わせたらそれでいいだろう。寧ろ、それが出来る分、海南よりは楽だぞ。今から転校するか?」 無茶なことを言う。さすが理不尽大王... 「ダメですよ。でもね、冬がちょっと怖いなって思うんですよね」 「何で?」 「ほら、水を使うじゃないですか。手荒れが酷そうだなって。クリーム塗っても追いつけそうにないなーって。今でコレですよ?」 そう言って手を広げて先輩に見せた。 「うわ、これは...」と言ってあたしの手を取る。 「先輩の手って冷たくて気持ちがいいですね」 そう言うと 「じゃあ、ずっと握っておいてやろうか?」 そう言ってにっと笑う。 「結局、熱くなるんでいいです」 と、手を離そうとしたけど離してくれない。 何も話さずに何となく歩く。先輩と手を繋いで。 「冬は、先輩の手はダメですね」 呟いた。 「わかんねぇだろ。冬はあったかい手になってるかもしれないから、ちょっと試してみろ」 そんな先輩の言葉にあたしは「変なの」と呟いた。 「なあ、時間あるか?」 藤真先輩が何を思って聞いたのか分からずに見上げて言葉を待った。 「何か食って帰らね?」 「お好み焼きが食べたいです。藤真先輩の奢りで」 あたしの答えに一瞬驚いたような表情をした藤真先輩。 でも、それは本当に一瞬で、 「いいぞ」 そう言った藤真先輩は、まだあたしの手を握ったままだった。 |
桜風
12.2.22
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