君の隣で 14




よくよく考えたらの家は初めてお邪魔する。

が引っ越して以来、彼女の家に行ったことはない。

こっちに家があるけど、部活で忙しかったり、今となってはここに来るには用事がなきゃだめな気がしたいた。


の家の前に付くと、煙が上がっている。

今日はバーベキューをするからと招いてもらったんだけど、もう始めているらしい。

を見ると不思議そうにしていた。

俺とは顔を見合わせてそして、の家の敷地に入った。

自転車を停めさせてもらって庭に回ると、とても不思議な光景が広がっていた。

「お、。遅かったな!」

と軽く手を上げてきた人がいて、は俺の背中に隠れる。あの人には数ヶ月前に本気で追いかけられたからな...

「あれって、藤真さんだよね」

振り返ることなく呟くと

「ですよねー」

と肯定の返事がある。

ちゃん、早くおいでよ」

「仙道も居るんだけど...?」

前に会ったという話は聞いたことがある。確か、予選会場で偶然会ったとか。

「何でだろうねー...」

も仙道が此処に居る理由がわからないようで警戒を緩めずにそう返した。

「宗ちゃん、いらっしゃい!」

おばさんに声をかけられて「こんばんは、お邪魔します」と挨拶を返す。

おばさんは昔とあんまり変わらないな...

ちゃん?宗ちゃんの後ろに隠れたままだとお肉なくなっちゃうわよ?」

おばさんの言葉に反応したが慌てて俺の背中に隠れるのをやめて出てきた。

「あれ、お父さんは?」

そうそう、おじさんの姿が見えないんだ。

「早く帰れる予定だったんだけどね。接待が入っちゃったの。残念よね」

しょんぼりするおばさんの様子を見ると、本当に相変わらずなんだなって思う。

「そうなんだ...あ。あたし着替えてくるね。宗、荷物家の中に入れとこう。貸して」

言われて俺は肩から掛けているバッグを渡した。

少し重いけど大丈夫かな、って心配したけど、さすが我が海南大附属高校バスケ部マネージャー。

この程度の重さなら楽々運べるようになったらしい。


「ほら、宗ちゃんも沢山食べてね」

「いただきます」

皿と箸を渡された。

「お前、こんな遅くまで練習してるのか?」

「全体練習はもっと早くに終わってますよ。俺は自主練です」

そう返して目の前の肉に手を伸ばす。

「あらあら。お野菜が無いわね。ちょっと切って来るから待っててね」

おばさんはそう言って家の中に向かっていった。

「なあ、お前とって幼馴染って本当か?」

「ええ。けど、それ以上かもしれませんよ」

しれっと返してみると「ええ?!」と声が上がる。

「...仙道?」

ちゃんは俺が狙ってるのに」

...なに言ってるんだ、こいつ。

「お前、バカか」

藤真さんが冷ややかに言う。

ああ、そうですよね。そういうことですよね...

焼けている肉と野菜を皿に取りながら俺は納得した。

パタパタと足音が聞こえて「お母さんは?」とが声をかけてきた。

「野菜を切るって台所に行ったぞ」という藤真さんの言葉にはあわてて踵を返した。

「野菜も食べてくださいよー」とが戻ってきた。

野菜を焼くスペースがないからか、はすぐ傍に立っていた仙道の皿の上に肉を置いていく。

「うわぁ、ありがとうちゃん」

仙道が嬉しそうな声を上げる。

それにムッとしたように藤真さんが

「おい、。俺にも肉を焼け」

という。命令形だ。

「野菜も食べてくださいよ。さっきから肉しか食べてないでしょ、藤真先輩」

呆れたようにが言うと

「肉を食べて大きくなるんだ!」

と子供のようなことを言う。

は仙道と俺を見て、そして再び藤真さんにに視線を戻した。

「...藤真先輩だって大きいですよ」

「こいつらと見比べた後でよく言えたな...」

唸るように藤真さんが言う。

まあ、藤真さんだって普通サイズよりは高い方だと思う。俺と仙道がさらに高いだけで。

「そういえば、翔陽のベンチって凄く背が高いのが揃ってましたね」

今年のベンチは迫力があった。

「まあ、な」

なんて『人間山脈だ...』とか呟いてましたよ」

「ちょっと、宗!言わないでよ」

「そうか、。あいつらにちゃんとそのことを伝えておいてやろう」

にやりと笑って藤真さんが言う。

「やめてくださいよ、藤真先輩。そんなコト言われたらあたし凄く失礼な人っぽいじゃないですか!」

「少なくともお前は俺に対してかなり失礼だ」

ビシッと箸をに向けて藤真さんが言う。よっぽどさっきのの反応が気に入らなかったんだろうな...

「わかりました。藤真先輩のために心を込めてレバーを焼かせていただきます」

。お前、俺がレバー嫌いだって知ってるよな?」

へー、嫌いなものがあるんだ。

「心を込めて!!」

畳み掛けるようにはそう言って、本当にレバーを焼き始める。

藤真さんは複雑な表情でその様子を見守っていた。そりゃ、『心を込めて』って好きな子に言われたらそのまま引き下がるしかないよな...

「はい、藤真先輩。愛情たっぷりにあたしが焼いたレバーです!」

そう言っては藤真さんの皿の上にそれを置いた。

藤真さんの葛藤は目に見て取れる。

そして、意を決したようにそれを口に運んだ。

ゆっくり物凄く頑張ってそれを咀嚼した藤真さんはごくりと飲み込んだあと、凄い勢いでウーロン茶を飲み干した。

このままが『心を込めて』他の男に肉を焼くのも面白くないから

も食べなよ。俺が焼くから」

と申し出る。

「肉焼いて、肉」

弾んだ声でがそう言い、

「はいはい」

と返事をしながらトングを受け取った。



「...お前、相変わらず食うな」

いやはや、本当に。

「何処に入ってるの?」

全くね。

「見事な食べっぷりだね」

相変わらずのがなんとも可笑しい。

今更慌てた様子のが更に可笑しくて、俺は思わず噴出した。









桜風
12.3.21


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