君の隣で 18





藤真先輩に小突かれた頭を撫でる。

痛くなく、優しく撫でられたようなそんな錯覚すら覚えてしまったそれにちょっとだけ戸惑った。

?」

別の声が降ってきて顔上げると牧さんだ。

「どうした、腹でも痛いのか?」

心配そうに顔を覗きこんできた。

「あ、いえ。そういうんじゃ...」

そこまで言って、どっちが恥ずかしい話だろうと今更ながらに思う。

「そうか」と相槌を打ってくれた牧さんは

「体調が悪いなら、今日の部活はいいぞ。どうせ軽く流すだけになるだろうし」

と言う。

一瞬、その言葉に乗ってしまいそうになったけど、今日の部活をサボっても避け続けることが出来ない。

藤真先輩の言う『悲しかった理由』もイマイチわからない状態で家に帰っても悶々とするだけだし。

もっかい宗と顔を合わせたら気付くかもしれない。


あたしと宗は準備のチームだったから、クラスの片付けで顔を合わせることがなく、結局部活まで宗に会わなかった。

そして、今日の部活は牧さんが言ったとおり流した感じの軽い内容だった。

勿論、自主練を禁止することはなかったから宗はいつものようにシュート練習を始めた。

あたしも、ちょっと溜まってた作業を済ませることにした。



少し離れた場所から宗が呼ぶ。

「なに?」

「帰らないの?」

「あー、ほら。前にちょっと休ませて貰ったでしょ。そんときに溜まって作業があるから今日みたいに仕事が軽いときにやっておきたくて。邪魔?」

そう言うと「ううん」と宗は首を横に振る。

いつもの感じにホッとした。

もうちょっとギクシャクした感じになるかと思ってたから。

はさ」

そう言って宗がシュートした。

「なに?」

「仙道と、付き合ってるの?」

なぜか、ぎゅうと胸が痛くなる。

言葉が返せなくて、でも何か言わなきゃと思っていると宗が振り返った。

?!」

驚いたように声を上げた宗が駆け寄ってきた。

「ど、どうしたの?!」

どうしたと聞かれても、あたしは自分がどうなっているのかわからない。

「なにが?」

あ、そうか...

上手く声を出せなくて、やっとわかった。

あたし、泣いてるんだ。

だから宗が慌ててるんだ。

「仙道、関係ない」

なぜか片言な感じに言葉を返す。

宗は「そか」と息を吐く。

「俺、仙道に取られたかと思っちゃったよ」

苦笑して言う。

「なに、それ」

「何だろうね。昼間の、アレを見たときに俺逃げちゃっただろう?」

アレは逃げたのかな?

頷いてみると宗は困ったように笑った。

「あのままあそこに居たら、仙道を殴ってしまいそうだったから。それはさすがに拙いからね。頭を冷やしたかったし」

頭を冷やす?

「俺にとって、は『いちばん』だから。これまでずっとね。だから」

「あたしも!」

宗の言葉を遮るように思わず口に出していたのは、自分も、という主張だった。

宗は、元々大きな目を更に大きくしてぱちくりとした。

「あたしも、宗がいちばんだよ」

「あの、...?」

「だから、宗に嫌われたのかって悲しくなったの」

そうだ。だから、悲しかったんだ。

あたしにとって、ずっと宗はいちばんだった。せっかく再会できたのに、すぐ傍に宗がいるのに、いなくなるのが嫌だったんだ。

「俺はを嫌いにならないよ」

困ったように笑った宗はあたしの頭をやさしく撫でる。

は、俺が唯一大切に思ってる女の子だから」

「えっと...」

何か言葉を返したほうが良いような気がするけど、それにピッタリな言葉が見つからない。

「いいよ、別に」と宗が苦笑する。

「けど、そうだな」と呟いて斜め上を見た。

つられてあたしもそっちを見る。

「仙道は死ぬほどムカつくから、選抜で当たらないかな」

ポツリと宗が呟いた。

「はい?」

「試合でコテンパンにしてやるから、さ」

爽やかな笑顔で宗が言う。



「はい!」

思わず気をつけ。

「今年のインターハイは、先輩に連れてってもらったけど。来年は俺が連れてってあげるから。あ、その前の選抜も」

自信に満ちた笑みを浮かべてそんなことを言う。

「楽しみ!」

、ちゃんと俺の隣に居てね」

その言葉が嬉しくて、「うん!」と元気よく頷くと、宗が噴出して笑う。

「ちょっと、何で笑うの?!」

「なんでもないよ」

そう言って宗はまたシュート練習を再開した。

「ね、待ってて良い?」

「俺の隣に居てくれるんでしょ?」

あたしの問いに笑いながら宗は言ってまたシュート。

綺麗な弧を描いてそのボールはリングに吸い込まれていった。









桜風
12.4.18


ブラウザバックでお戻りください