距離





体が大きくて物静か。学校では品行方正・成績優秀で通っているらしい。

落ち着いたその物腰は既に社会人のような雰囲気を醸し出している。

バスケのことしか頭にないっぽいくせに、周りを良く見ているし面倒見もいい。


そんな彼は年下の男の子。



ああ、もう何ていうか。

いい加減自覚というか、認めちゃいました。あたしは紳一が好きデスよ。

認めちゃったら少しは楽になるかと思ってたんだけど。

一つ屋根の下に住んでいるとそんなことにはならず、気まずくて避けたいと思っていてもそれが上手くいかないってのが現実で。

紳一のことを思い浮かべると溜息だけが漏れるのです...


ちゃん」

「はい!」

「美味しくないかしら?」

朝食は大抵叔母さんが用意してくれる。あたしの吐いている溜息が料理に対するそれなのかと思ったらしい叔母さんが心配そうに声を掛けてくる。

「いえ、美味しいですよ。いつもどおり」

「そう?」と微笑む叔母さん。

最近は部屋を出る時間を少し遅くしている。

少しでも紳一と顔を合わせないで済むように。

夜はなるべくバイトをして、それ以外は手早く夕飯も済ませる。

部屋に篭って「大学の課題がある」といえば、紳一もそんなに声を掛けてくることがなくなった。

それはそれで寂しいとは思うんだけど、あたしの精神を保つにはそれ以外思いつかない。


「おはよう」

いつもの時間にリビングに下りると、いつもは学校に行ってるはずの紳一がいた。

「お、おはよう」

あからさまにビクついてしまった自分が嫌になる。

せめて、ポーカーフェイスを取り繕おうね、あたし。

一瞬、紳一が切なそうに目を伏せた。

「コーヒー、飲むか?」

「自分でやるからいいよ」

「いや、俺も飲みたいから」

「じゃあ、あたしが作ってあげる。ねえ、学校は?」

コーヒーの豆をひきながら聞くと

「今日は創立記念日で休みなんだ。先生たちは式典とかそういう催しがあるらしいから、部活も休み」

と言う。

これだから私立は!!

「そっかー。良かったね、休みが増えて」

差しさわりの無い会話を続ける。

その間に、とっととコーヒー淹れて、朝ご飯食べて、学校へ行かないと...

姉さんは、今日も学校だろう?」

「そうだよ。実はちょっと時間が無いのです」

「じゃあ、コーヒーは俺が淹れるから、食事してろよ」

そう言って紳一が側にやってくる。

「じゃ、お願い」

そう言ってそそくさと紳一から距離を取る。

だから、あからさまだから、あたし!!

パンとサラダをお皿に分けて、いただきますと手を合わせる。

「ほら」

淹れたてのコーヒーが目の前に置かれた。

湯気と共にいい香りが部屋に広がる。

「ありがとう」と言って一口飲んだ。少し苦味が強いのは、紳一のコーヒーの特徴。ビターな方が好きらしい。

「大学ってこんなに遅くていいのか?」

「9時からだから。まあ、いつもギリギリだけどね」

はははと笑えば、目の前の紳一は頬杖をついて「ふぅん」と適当な相槌を打つ。

見られていると益々居心地が悪くて、急いで食事を済ませる。

姉さん。痩せたんじゃないか?」

突然そんなことを聞かれる。

最近体重計に乗っていないから分かんないけど、そうなのかな?

「わかんない」

という答えに、紳一は一瞬眉間に皺を寄せた。

アナタ、そういう表情したらちょっと怖いよ。貫禄があるんだからね!

ふぅ、と溜息を吐く紳一。

うわー、感じワルイなー...

「なあ、姉さん」

「な、なに?」

「俺、何かしたか?ずっと避けてるだろう?ずっと考えてたんだけど、全然思いつかないし。教えてもらえないか?」

何で、そんな切なそうな目で見るの?卑怯だよ...

「別に、何もしてないよ」

避けてたのは本当だから、否定はしない。そして、紳一は何もしてない。悪いのはぜんぶあたし。

「ごちそうさま」

手早く食器を洗って、自室へと戻る。

「話、済んでないだろ」

不意に手を掴まれる。

「だって、あたし学校があるもん」

振り払って見上げた先には、泣きそうに顔を歪めている紳一。

「帰ってきても、どうせ俺と顔を合わせようなんて思わないんだろう」

いつもより強い語気に、少しだけ怖いと思った。

そして、あたしは居た堪れずそのまま逃げる。

階段を駆け上がっている最中に、ふわっと浮遊感を感じた。

遠くから紳一の声が聞こえる。


あたし、どうしちゃったんだろう...?


自棄気味に自分の気持ちを認めちゃいました、ヒロイン。
牧さんの貫禄に押され気味ですねぇ...
でも、牧さんに切ない目で見られたらなんでも白状しちゃいそうです、私(笑)


桜風
07.1.30


ブラウザバックでお戻りください