好き





幼い頃から憧れていた。

一緒にいたくて必死に後ろを着いて歩いていた。

久しぶりに再会した彼女は何だか頼りなく感じる反面、綺麗になったことに少なからず戸惑いを覚えた。

そして、俺が彼女へ向ける想いが変わっていることに気付く。

どうしようもなく焦りを感じてしまう自分に気付き、更に子供だということを実感してしまう。


たったひとつの年の差がこんなに大きなものだと気付かされて、打ちのめされることも少なくない。



逃げていく姉さんを1拍置いて追いかけた。

そして、階段の上から姉さんが落ちてきたとき、心臓が潰れるかと思った。

名前を呼び続けても返事が無い。酷く後悔した瞬間だった。学校があろう何だろうと手を離すんじゃなかった。どう見ても顔色が悪かったんだ。

丁度、森村さんがやって来た。状況を把握した彼女はすぐに救急車を呼ぶ。

「俺がついて行きます」

救急車に一緒に乗って、総合病院へと向かった。

救急車の中でも姉さんの意識は戻らない。

落ちるとき、頭を打ったのか?いや、そんなことは無い。

俺が階段の下に行ったときに姉さんの体はバランスを崩したようになって落ちてきた。

頭は打ってない。


病院で医師の診察を受けた結果、『過労』という診断になった。

確かに、ほぼ毎日バイトをしていたし、学校だってちゃんと行っていた。

重い病気ではないことに安心した。

森村さんから連絡を貰ったらしい両親も駆けつけてきた。

母はともかく、父までやってきたのは予想外だった。

ちゃんの容態は?」

「過労、だそうだ。2・3日ゆっくり休んだら回復するって」

「そうかー。そんなにアルバイトしていたのか?」

「殆ど毎日帰るのが遅かったな」

「私たちも遅いから気付いてあげられなかったわね」

両親も沈む。

「今日は、姉さんは俺が看てる。俺は部活も無いし。仕事に戻るといいよ」

両親は頷き、仕事へと戻った。


暫くして、姉さんの目が開く。

「大丈夫か?」

「あれ、此処。何処?」

か細い声でまだ意識が覚醒しきっていないようだ。

「病院だよ」

「なん、で...?」

姉さん、過労で倒れたんだ。階段から落ちた。覚えてないか?」

そう言うと少し考えた後、微かに頷いた。

「そういえば、そうだったね...」

姉さん、何であんなにバイトしたんだ?」

俺が聞くと視線を彷徨わせる。

「無理に理由を聞こうとは思わないから、言いたくないなら言わなくてもいい。けど、減らすことは出来ないのか?俺と顔を合わせたくないというなら、食事を一緒に摂らなくても良いし、俺も部屋にずっと居るから。だから、無理だけはしてくれるな。姉さんが階段から落ちたとき、心臓が潰れるかと思った。もう、あんな思いはたくさんだ」

両手を組んで額に宛てて話す。

あの時のことを思い出して、涙が流れた。愛しい人を失うかもしれなかった恐怖がまた俺の心を占める。

頬の柔らかい感触に、目を明ける。

陶磁器のような姉さんの白くてすらりと伸びる指が俺の頬を流れる涙を掬った。

「ごめんね、紳一。凄く、迷惑掛けちゃったね」

目に涙を浮かべて姉さんが言う。

慌てて俺は自分の涙を乱暴に拭いて姉さんの顔を覗きこむ。

「迷惑なんかじゃない。けど、凄く心配した。だから...」

「ごめんね。紳一、全然悪くないの。あたしが、悪いのよ。ねえ、約束して。これから言うことは、忘れてね」

姉さんの言葉に頷く。

「あのね、あたしね。紳一の事が好きなの。でも、その感情を抱えて上手く付き合えると思えなかったの。ほら、紳一にとってはあたしはただの従姉のお姉ちゃんでしょう?だから、取り敢えず、上手くコントロールが出来るようになるまであんまり顔を合わせたくなかったの。ごめんね、こんなお姉ちゃんで」

そう言って微笑む。瞳から雫が零れた。

「はい、もう忘れてね。あたし頑張るから」

「嫌だ」

「ん?」

「忘れない。忘れたくない」

「どうして?困らせないでよ。お願い。あたし頑張るから」

「頑張るって何をだ?俺を好きだって気持ちを消すことをか?だったら尚更だ」

姉さんは困惑した瞳で俺を見つめる。

「俺も姉さんの事が好きだよ。それこそずっと前から。この気持ちを晒せば、姉さんはウチを出て行くんじゃないかって必死に抑えて隠してた。けど、もう抑えられない。隠さなくても、良いんだろう?」

そう問えば、姉さんは瞳を大きくしてそして、優しく微笑み、頷く。

俺は椅子から腰を浮かせて正面から姉さんの顔を覗きこむ。

目を瞑った彼女に口付けを落とした。



「じゃあ、約束だ」

「何?」

「バイトの量を減らすこと」

「はい」

「なるべく一緒に食事は摂ること」

「うん」

「それと。...って呼んでもいいか?」

そう聞くと姉さんは噴出した。

「いいよ。ただし、2人のときだけだよ?」

そう言って微笑むは本当に綺麗で、もう一度唇を重ねた。


牧さん連載完結です!
いとこ同士は結婚も出来るんですよ。だから、大丈夫!
まあ、両家の両親もさほど反対しそうにないなぁ...

連載終了、ありがとうございました!
最後までお付き合いくださった皆様のおかげです。


桜風
07.2.1


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