失恋




体が大きくて物静か。学校では品行方正・成績優秀で通っているらしい。

落ち着いたその物腰は既に社会人のような雰囲気を醸し出している。

バスケのことしか頭にないっぽいくせに、周りを良く見ているし面倒見もいい。


そんな彼は年下の男の子。



叔父さんにバイトをしたいという話をすれば

「経済の仕組みを理解するのにいいことだと思うよ」

と言われて許可された。

『経済の仕組み』と来ましたか...

ウチの親だったら絶対に言いそうに無い単語だな...

姉さん、バイトするのか?」

期末試験があるため珍しく朝練がない紳一が叔父さんとの会話に入ってきた。

「うん、そうしようかなって思ってたから」

「ふーん...」

聞いておいてその反応ってどうなの?

「ごちそうさま」と一言言い置いて紳一は席を立った。

「寂しいのよ」

突然そういわれる。

「え?」

「紳一も寂しいのよ。ほら、ちゃんがアルバイトし始めたら家に居ること少なくなるでしょう?だから、ね?」

そう言って微笑む叔母さんに思わず首を傾げる。

紳一って、そんな可愛げのある子なんですか??


人生とは上手くいかないように出来てるのではないだろうか?

別に凄く好きで、命がけの恋だったわけじゃない。

出会いは合コンだし、向こうから声を掛けてきたんだし。

それでも、数ヶ月一緒に居れば愛着も湧くし、やはり失恋をすれば結構ショックだ。


学校でそのメールを受け取った次の授業は全くの上の空だった。

何やってんだろう、あたし...

その日はバイトも入ってたし、家に帰るのが遅くなる。

バイトが終わって近所の公園に差し掛かった。

風でブランコが揺れている。

それがあたしを誘っているかのようで、一度コンビニで買い物をして公園の中に足を踏み入れる。

「はぁ...」

口を開けば出てくるのは溜息だけで、何とも情けない。

ブランコに腰をかけてコンビニで買ったチューハイのグリップを上げる。

プシュ、と気体の抜ける音がした。

飲んだこともないそれを買ったのは本当に勢いとしか言いようがなく、そして、今これを飲んだのも勢いとしか言いようが無い。

アルコールの匂いに少しクラリとするけど、一気に飲んでみる。

あら、意外と美味しいわ。

自分がお酒が飲めるということに何だか気も大きくなり、もう1本と手が伸びる。


いつの間にかあたしは意識を手放し、気が付いたときにはいつもの自分の部屋だった。

体を起こそうとすれば、ズキン、と頭に響く痛みに顔を顰める。

ああ、これってもしかして二日酔い?

人生初の飲酒に引き続き、二日酔いまで体験するとは...

頭痛を抱えてリビングに下りれば、紳一がソファに体を沈めてテレビを見ていた。

あれ?

「起きたか」

首を巡らしてあたしを見て溜息混じりにそう言う。

「おはよー。学校は?」

「世に言う夏休みというやつだ」

無愛想にそう答える。

ああ、そうか。高校の方が夏休み早いんだ...

え、ちょっと!?あれ??

時計を見れば既に11時を回っている。

嘘、あたし学校!!

走り出したいけど、頭で疼く痛きがそれを許さない。

「何処行くんだ?」

「学校」

「今日は土曜だが?学校は無いだろう。大人しく家に居ろよ。どうせ二日酔いにでもなってるんじゃないか?」

ご明察...

リビングのテーブルについて顔を突っ伏す。

「紳一ぃ、水頂戴...」

溜息が聞こえて足音が冷蔵庫へ向かう。

バタンと冷蔵庫を閉める音がしてあたしの前に透明なコップが置かれた。

それを一気飲みしてみたら頭が別の痛さを持つ。

あれ。カキ氷を掻きこんだ時の様なあの鋭い痛み。「くー!」と言いながら頭を軽く叩いていると「何やってるんだか」と溜息混じりにそう言って紳一があたしの目の前に座った。

「叔父さんと叔母さんは?」

「昨日から旅行だってさ。俺も午後から部活あるから大人しく寝てろよ」

「あー、そっか。全国間際だもんね」

「そう。その大事な時期に従姉の面倒を見てるってことだ」

「お世話様!」

「どういたしまして」

フッと笑ってそう言う紳一の余裕がどうしようもなく羨ましい。


きっとこの子はあたしみたいに小さなことで取り乱したりしないんだろうって思う。

年下のクセに!

大人気ないあたしは、年下の紳一に理不尽な怒りを向けてみた。


ヒロイン、彼氏に振られました。
まあ、フリーになっていただかないとねぇ?
ちょっと拗ねた牧さん。
どうでもいいけど、相変わらず口調が定まりません...


桜風
07.1.18


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