海沿いを走る電車、3両目 1






電車に乗るときは、3両目。

別に験を担いでいるわけでもないし、そんな家訓があるわけでもない。

だけど、何となく3両目に乗るようになっていた。



学年がひとつ上がって、部活帰りの少し遅い時間の電車に乗ってふと気付いた。

知っている人が乗っている。

知っているといっても、『知り合い』ですらない人だけど...

名前は知らない。

ただ、オレは彼女を知っている。

数ヶ月前の出来事だ。




「すみません」

切羽詰ったように声を掛けられて、思わず面食らって足を止めた。

「はい?」

「地元の方ですか?」

「...まあ」

警戒しつつも、彼女の真剣さに飲まれて正直に答えてしまった。

「よかった」と心からの言葉を零した彼女は「道を教えてください」とオレの目を見て言った。

ああ、観光客か。

そう思った。

彼女はオレに道を聞き、そして、傍に居るおばあさんに説明し始めた。

ばあちゃんと一緒に来ていたのか、と思っていたら

「ありがとう、お嬢さん。お兄さん」

そう言ってばあちゃんが手を合わせる。

「へ?」

や、オレまだ生きてる。仏さんじゃねーぞ...

「いえ、私は役に立ちませんでしたから。お礼は、この人だけに」

彼女はそう言って自分の腕時計を見て、青くなっていた。

おそらく、受験でこちらに来ていたのだろう。

そして、人が好さそうな匂いを発していた彼女はさっきのばあちゃんに声を掛けられた。

オレに声をかけた時点で丸投げしても良かったのに、彼女は丸投げせずにあのばあちゃんに最後まで付き合った。

責任感が強いのは分かった。人が好いことも。

絶対に、人生損をしているタイプだと思う。

大学だか高校だか分からないけど、受験と言ったらこの先の人生を左右するというのが現代の社会の仕組みというわけで。

となると、やっぱり遅刻して不合格になったら目も当てられない。

ばあちゃんは、そんな彼女の事情に気付かずに、何度も礼を言っていなくなった。

「急いだ方がいいんじゃない?」

オレの指摘に、彼女は飛びあがった。

「そうだった!ありがとうございました!!」

そう言って彼女は駆けていった。

走っていける距離の学校なのだろうか...




「合格したってことか...」

あまりの人の好さを目の当たりにして、色々と心配だったけど、どうやら事なきを得た..んだと思う。

実際、彼女が受験だったのかとか、そもそもいくつなのかは分からないけど。

それでも、まあ。

あの時、態々オレに「地元の人ですか」と確認して道を聞いたと言うことは、彼女はこっちの人ではないと言うことで。

そんな彼女がこんな時間にこの電車を使っているのなら、こちらが生活圏になったということなのだろう。

「よかったじゃん...」

あの不器用っぷりを目の当たりにしてしまったオレは、やっぱり少しは気になっていたのだ。



しかし、彼女の人の好さは相変わらずのようで。

大抵、夜遅い時間に見かけるのだが、たまに、休日の練習試合の帰りに見かけることもあり、お年寄りに席を譲っていたりする。

それはいいことだ。

だが、その後、彼女は立ったまま寝ていたりするのだ。

危なっかしい。

そんなに疲れてるんなら席譲らなきゃいいのに...

どうやら彼女も3両目利用者のようで、時々隣の車両から態々3両目に移動してくる。

その気持ち、わからなくもない。

確かに、気持ち悪い。

そして、今ではふと気付くと彼女の姿を探している自分がいる。

用事があるわけではない。

ただ、相変わらずの人の好さゆえにまた何か面倒なことに巻き込まれていないか気になる..と少し自分に言い訳をしてみたけど。

自分にする言い訳ほど、うそっぽいものはない。

まあ、ウソだし。

平たく言うと、本当に気になるのだ。

何故気になるのか。それも含めて気になる。









桜風
12.10.3


ブラウザバックでお戻りください