海沿いを走る電車、3両目 2






バイトのある日は、ほとんど同じダイヤの電車になってしまう。

当然だ。同じ時間に上がるのだから。

同じ電車に乗ると、いつの間にか電車を待つホームの位置が固定化し、そして、つまりは乗る車両が同じになる。

わたしは、いつも3両目の後ろ側のドアから電車に乗る。

それは、この時間のダイヤの電車でも、朝のラッシュの時間の電車でも同じだ。


そして、バイト帰りに乗る電車の3両目には、彼がいる。

制服でどこの学校か、それがわかるほど制服マニアでもない。

今年大学生になったばかりのわたしは、そもそもこちらの出身ではないので、どんな高校があるのかも知らない。

結構遅い時間の電車に彼は乗っている。

バイト帰りの電車は、酔っぱらいも少なくない。

きれいな顔立ちをしている彼が絡まれているのを見たことがある。しかし、彼がギロリとにらむと酔っぱらいはそそくさと逃げていった。

意外と、と言っては彼に失礼だろうが、男らしいと思った。


ある日、電車に乗っても彼がいなかった。

高校生だから試験期間かなと思った。

いつも遅い時間に帰っているということは、部活か、塾か。

彼は学校指定らしきバッグの他にスポーツバッグを持っている。おそらく、体育会系の部活動をしており、尚且つ、時間的に考えて、居残り練習をしている。

あのちょっと偉そうな感じはレギュラーは取ってそうだ。

うん、なんかふんぞり返っている感じ。


今日は珍しく座れた。

バイトも立ち仕事だから、できれば座れるといいのだけれども、第二次ラッシュというか、飲んで帰る人の一次会が終わるくらいの時間が帰宅時間だから座れなかったり、座りたくなかったりなのだ。

しかし、今日は座りたいと思う、ドアすぐそばの端っこの席が空き、そこに座った。

学校の授業で使うちょっと内容の濃い教科書を開いて眺めていると彼がわたしの近くのドアから降りていった。

パタッと何か音がして視線を向けるとカードケース。

ってか、定期。

「あ、落とした...!」

拾って顔を上げても彼の姿は見えず、わたしは慌てて自分のバッグを持って電車を降りた。

だって、定期だ。

絶対に困る。落としたら困るものナンバーワンと言っても過言ではない..と思う。

ホームをきょろきょろとみ渡した。

いない...

ホームで待っている方がいいのかどうかわからないけど、階段に向かった。

もしかしたら改札のところで気づいたかもしれない。

この駅はそこまで大きくない。

あって、北口と南口くらいじゃないかな...

階段を賭け上り、出口の確認をしていると

「ありがと、お姉さん」

と言われて、わたしは驚いてそちらをみた。

彼が立っていた。

「え、あ。落としましたよ」

「うん、わざとね」

「...へ?なんで、またそんな危ないことを」

首を傾げると彼はわたしが差し出した定期を受け取った。

「お姉さんなら気づいて持ってきてくれると思ったから」

そういって彼はポケットに定期をしまう。

「あ、そうなの?」

変なの、と思ってわたしは自分の乗るべき電車が入る先ほどのホームに戻っていこうとした。

しかし、彼はわたしの腕をつかむ。

「あの、何ですか?」

彼はヘンテコな子だった...

「名前、教えて」

「なんか、やだ」

「俺は、藤真健司。お姉さんは?」

「...

さんね。ありがとな」

そういって彼は北口に向かって歩きだした。

何だったのだろうか...









桜風
12.10.10


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