海沿いを走る電車、3両目 4





今日もバイトで、電車を待っているとき、ちょっとだけそわそわしていた。

彼は3両目にいるかな?

昨日、定期を落としてしまったおっちょこちょいな彼を思い出していた。

「藤真く..さんかな?制服だから高校生だろうけど...」

そう呟くと、電車の進入を告げる音楽とアナウンスが駅のホームに流れ始めた。

居た!

けど、何となく最初から3両目に乗りづらくて、まずは隣の4両目に乗ってみた。

藤真さんは、窓の外を眺めている。

何だか物憂げだ。

美形は何をやっても様になるからズルイ。

藤真さんは、少し背が高めで、色素が薄い。肌の色が白いし、髪の色も明るい。

髪の色は人工的なものではなく、おそらく自然のものだ。

肌の白さなんて、ホント羨ましいくらいに透き通っている。

でも、スポーツバッグを持っているからスポーツをやっているのは間違いないと思うけど..屋内スポーツかな?

しかし、何だか昨日と雰囲気が違うような...


「藤真..さん?」

やはり最初だから『さん』だろう。

声を掛けてみると藤真さんは声を上げて驚いた。

その声に驚いてしまったけど、何か考え事をしている人に声を掛けた私が拙かったのだろう。

「あ、すみません」

藤真さんが謝罪をする。

「いえ、こちらこそ。ビックリさせちゃって...」

...うーん、やっぱりちょっと違う気がする。

「な、何ですか?」

と藤真さんが聞く。

「あー、いえ。昨日と印象が全然違うので」

もうちょっと、いたずらっ子な感じだった。ガキ大将と言うか...

「え、と。昨日は...」

わかった!

「わかった!健司くんの双子のお兄さんですね!!」

そうだ、一卵性双生児って体型も似るはずだし、声だって勿論。性格は周囲の環境によってかわるはず。

「お兄ちゃんだから」とか「弟として」とか色々と役割を押し付けられたらその役割通りになるのだろう。

この人は、昨日の藤真さんとは違う、双子のお兄さんなのだ。昨日の弟君は『健司』くんだった。では、お兄さんは何と言う名前なのだろうか...

私が凄く納得していると、

「や、オレ本人です。すみませんでした」

と彼が謝る。

彼はコホンと咳払いをして「昨日は、すみませんでした」と頭を下げた。

ん?これって双子のお兄さん説は違うってことなのかな?

そうか、違うのか...

「あ、あの...」

藤真さんが声をかけてきた。

「双子のお兄さん」

もうちょっとからかいたくなった。何だか、彼は基本的にマジメ君のようだ。

「や、だから...」

ほら、やっぱり困り始めた。

「ごめんなさい、冗談。けど、何かやっぱり違う」

「すみません。昨日は、その..さんの名前を知りたくて」

さんの名前』?私の名前??

「名前?」

「そう、名前」

「そっかー...」

名前を知りたくて、話しかけるきっかけが欲しかったんだー。

「名前ね。確かに普通に声を掛けられて『名前、何ていうんですか』って聞かれたらちょっと怖いもんね」

都会は恐ろしいところだしね。

「けど、定期は拙いですよ。落としたらホント大変ですよ?」

やるならハンカチとか、そんなダメージを受けないものにしたら良かったのに...

「あ、はい。すみませんでした」

素直に頭を下げる藤真さん。

「うん、よろしい」

素直なのは良いことだ。


「藤真さんって」

「あの、オレの方がたぶん年下なんで。『さん』とか...」

藤真さ..くんにそう指摘された。

「藤真くんって...」

一応、彼の反応を覗うと、彼は頷いた。

「藤真くんって、いつも3両目に乗ってるの?」

彼は驚いたように目を丸くした。鳩が豆鉄砲を食らった感じ。

あ、れ...?

「知ってたんですか?」

「ええ。藤真くんって背も高いし、結構目に付くのよ?」

美形さんだし。

「あ、いや。オレ、あんまり背は高い方じゃなっすよ...」

え、どんな巨人の国にお住まいなのかしら?

次の停車駅のアナウンスが流れる。

「あ、次なんで」

藤真くんが言う。

「知ってる」

そう言うと彼はバツが悪そうに笑って

「ホント、すみませんでした」

と頭を下げた。

ちょっとイジワルだったかな?

「またね」

手を振ると少し驚いた様子を見せた彼も「また」と軽く手を上げて電車を降りていく。

彼は階段のところで一旦止まって軽く会釈をして足取り軽く階段を昇っていった。

若さだねぇ...









桜風
12.10.24


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