| 階段を昇る足取りだって軽くなるってもんだ! さんは「また」と言った。 つまり、昨日のオレの失態はそんなに気にしていないと言うことなのだ。 元々、彼女には『天然で人の好い子』ってイメージがあったけど。 ...でも、あの性格だと誰かに騙されやしないかと心配になる。 「はー、イマドキ珍しい子だなー」 永野が呟く。 年上なのに『子』って... けど、実際に彼女は珍しいと思う。 素直だし、素直だし..素直だし... 『素直』以外何だか思い浮かばない。 「んで?」 高野が聞く。 「んで?って??」 「だーかーらー。お前、そのちゃん?」 「さん」 馴れ馴れしく名前で呼ぶな。 「さんと、どうなりたいの?この間も聞いたけど」 そこなんだよ。どうなりたい... 「や、まだわかんねー」 オレの言葉に皆は呆れるけど、本当に分からないんだ。 さんは、オレが何部に入っているのか気になっていたらしい。 スポーツバッグを持っているから、部活をしているのだろうと推測はできるが、種目までは無理だったと言っていた。 こっちの人なら、うちの制服を見たらまずはバスケを思い浮かべるかもしれないけど、彼女の地元は遠いらしい。 『翔陽』という学校名すら初耳だったとか。 オレも気になっていたから聞いた。 さんのバイトのシフトは曜日で決まっているのかと思ったが、そうでもないらしい。 毎月、シフトを組む時にそれぞれの都合を聞いて決めていると聞いた。 ちょっと珍しいのではないだろうか。 「で、何のバイトなんです?」 「ファミレスのウェイトレスさん」 「...へー」 「制服が可愛いの」 彼女が笑う。 思わず彼女のウェイトレス姿を想像してしまった... 小さく頭を振ってその想像を追い出す。 「けど、結構遅くまでのバイトなんですね」 「うーん、もうちょっと遅くまでのがあるんだけど。これ以上遅くなったらこの路線の電車は一気に本数減るでしょ?それはちょっと避けたいからねー。もうちょっと遅くまでやってる方が時給は良いんだけど、やっぱり楽に帰りたいから」 彼女は苦笑した。 今年大学に入ったばかりだが、高校時代から接客のバイトをしていたからそんなに負担には思っていないとか。 大学の授業も基本的にまだ教養の段階のものが多くて、バイトを入れても授業についていけないということもないらしい。 ただ、これまで、彼女が小難しそうな本を開いているのを見たことがある。 それについて聞いてみると、「専門的な科目は基本的には2年以降なんだけど、1年から取れるものもあるから取ってるだけ」と苦笑していた。 これは、結構大変な授業だったから大学に慣れてから取ればよかったと後悔しているとか。 「大学って全然未知なる世界ですね。ドラマとかで見ても、たぶんそれって結構違うでしょうし」 「学校ごとの特色とかあるだろうしね。って、藤真くんは来年?」 「受験が来年ですね」 「あら、2年生」 彼女の言葉に苦笑する。 「そんなに老けて見えます?」 「結構しっかりしてる感じがしてるからね。そうか、今年で17歳か。若いねー」 「さんだって、そんなに歳変わらないでしょう」 大げさに言うからそう返すと 「そう思うでしょ?けどね、高校卒業して大学生になった時点で、制服女子高生を見たら『若いわー』って思わず呟いちゃうものなのよ」 と彼女が真顔で言う。 「呟いたんですか?」 聞いてみたら彼女は 「呟いちゃった...」 しみじみと答えた。 その表情が可笑しくて思わず噴出すと 「笑いごとじゃないのよ」 と彼女は言って拗ねてしまった。 |
桜風
12.10.31
ブラウザバックでお戻りください