海の見えるまち 3





 なんとか会議を乗り切り、ひと心地ついていると先輩に打ち上げに行こうと誘われた。

社会人たるもの、まずは人脈と思ってその誘いに応じる。


定時過ぎに会社近くの居酒屋に連れて行ってもらった。

今回の会議でお世話になった先輩たちにお酒をついで回りながらふと思い出す。

「海南大附属高校ってご存知ですか?」

確か、この先輩は生まれも育ちも神奈川だって言ってた。大学の時だけ県外に出たけど戻ってきたとかなんとか。

「あ?ああ、こっちじゃ有名だからな」

ぐいと一気飲み。

え、もう一杯?

「そんなに有名なんですか?」

「インターハイ常連校だからな。とはいえ、有名なのは男バスで、それ以外はそこまでスポットライト浴びてないなー」

「男バスって何ですか?」

「男子バスケ。え、お前そう言わない?ジェネレーションギャップ?」

勝手にショックを受けている先輩を放置して別の先輩のグラスにビールを注ぐ。

「こういうの、別にしなくていいよ。みんな好きに飲むから」

私からのビールを受けながら先輩は笑う。

「今回、凄くお世話になりましたから」

「当分凄くお世話することになるの分かってるから大丈夫。それで、何で海南?」

「かいなん?」

「さっきあいつに訊いてたでしょ」

「海南大附属高校のことですか。実は、今日パスケース落としてしまって」

「ありゃま、そりゃ大変」

「あ、でもすぐに拾ってもらえたから手元にはあるんですけどね」

「ああ、それを拾ったのが海南大附属高校の関係者だったっていうことか」

言われて頷く。

「お礼をするって話をしたのに、学校の名前しか聞いてないことに気づいて」

「学校を聞き出しただけでもまあ、良しとしなきゃだね」

そう言って笑われた。

そのとおりだ。

あの背の高さなら学校内でも有名なのではないかと思う。顔も整っていたし、きっと生徒の間ではなんとなくわかってくれる。

「ああ、そうそう。

思い出したようにさっきの先輩が声を掛けてきた。

「はい」

「あそこ、結構学校に入るのチェックが厳しいはずだから、試合があるときとかじゃないと入れないぞ?」

「……え?」



強豪校というのは、基本的に長期休暇はないと思う。

自分の高校時代を思い出しながらそんな結論に至った。

とはいえ、私が通っていた学校の何かが強豪だったかと聞かれれば首を傾げるしかない。知らないのだ。

少なくとも、自分が所属していた部は強豪の仲間に入れてもらえなかった。

地図で学校を確認して電車に乗る。

そういえば、こちらに越してきてからあまり冒険をしていない。毎日を乗り切るのにいっぱいいっぱいだった。

最寄駅に降りてバスに乗り換えて学校を目指す。

私が思ったとおり、結構いろんな部活動で練習試合が組まれていたようですんなり学内に入れた。

グランドを眺めて懐かしみながらも体育館を探す。

校内図を見て赴いた体育館はバレー部が使用していた。部員を見ても先日の男の子は居なかった。ということは、バスケ部?

拙い、この学校のチームがよその学校に赴くことを考えていなかった。

毎日通うのは正直避けたい。何せ、貴重な休みだ。とはいえ、いないんじゃ仕方ない。

元来た道を戻ろうとして、迷子になった。

この学校大きい。大学付属だからそんなに大きくないだろうって高をくくってたけど、部活動がこれだけ盛んだったら入学希望者も多いだろうし、学校側もある程度の生徒は受け入れるだろう。

とはいえ、行きかう生徒に「門はどこですか」と聞くのは憚れる。

校内で迷子になっていると体育館を見つけた。

さっきの場所に戻ってきたのかと期待したが、そうではなく別の体育館のようで。

今度は何をしているところだろうと体育館の中を覗き込むかどうか様子を窺っていると体育館の中の男子と目が合った。

「いた!」

思わず漏れた声に「あ、」と向こうも私の正体に気づいてくれたらしい声を漏らす。

「お礼をしに来たよ」

あー、よかった。目的も達成することができそうだ。

「お礼」

「約束したでしょ?」

「約束」

覚えていないのかな?

「ジンさん!」

体育館の中から目の前の彼が呼ばれる。

「ああ!」と返事をしてこちらを見下ろす彼を見上げる。首が少々痛い。

「これから練習試合なんです」

「そのようねぇ」

「お礼、したいんですか?」

戸惑いながら言う彼に私は頷いた。

「約束だもの」

「じゃあ、えっと。今日は2試合でその後自主練するから6時過ぎますよ」

「わかった。じゃあ、6時過ぎに駅前のファミレスね。あと、ちょっと見てって良い?部外者立ち入り禁止?」

「いいえ、どうぞ」

「じゃあ。最初の試合だけ見せてもらうわ。入り口はどこ?」

「あっちから。土足で大丈夫です」

「ありがとう」

お礼を言って体育館のギャラリーに向かう。

「ジン!」と背後から再び声が聞こえた。

名前で呼び合うなんて相当仲のいい部なんだな、と少しほほえましく思った。



学生時代は、球技がてんで駄目だったからコートの中にいる人たちは超人のように思えた。

中でもジン君。どうしてあんな遠くからシュートが入るのだろうか。

エスパーか何かなのだろうか。

練習試合がオーディションのようになっているのか、コート上の選手はみんな手を抜くことがない。

近くにいる人の会話に耳を澄ませて聞いてみれば、相手も他県の強豪とか。

実力差がありすぎるのか、それともアウェーだから相手がプレイしづらいのか。

ブザーが鳴り、海南大附属高校の勝利となった。









桜風
16.11.13


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