海の見えるまち 4





 今日は2校来てて、つまりは3校での練習試合。

次はウチが審判諸々で最後にもう一試合。


最初の試合が終わってギャラリーを見上げるとさんと目が合った。

彼女は手を振って背中を向ける。

見学は本当に一試合だけのようだ。

どれくらいになるという時間の約束をしていないけど、さんは本当に駅前のファミレスにいるのか。

まあ、いなかったらいなかったで仕方ないけど。



練習試合が終わり、日課のシュート練習を終えて駅前のファミレスに向かう。

自転車を停めて駐車場の窓から中を覗き込もうとするとちょうど

その窓際にさんの姿が。

コンコンと窓を叩いてみると驚いたように顔をあげて視線を向けてくる。

軽く会釈をすると目を丸くして入り口を指差した。

取り敢えず、俺を待っているという状態でよかったようだ。


自動ドアが開いて店内に入ると店員さんの元気な声が飛んでくる。

俺を見上げてびっくりした顔をされるのはもう慣れた。

「待ち合わせです」とひと言掛けてさんの元に向かった。

「お待たせしました」

「うん、大丈夫。ここらの図書館に居座ってたから」

「借りなかったんですか?」

テーブルの上には本が置いてある。でも、それは書店カバーが付いているからきっと購入したもの。

「市立図書館の本はその住人か勤務している人じゃないと借りれないからね。仮にそうだとしても、ちょっと返しに来るのが面倒だなって思う」

苦笑しながら肩を竦めるさんの言葉になんとなく同意してしまった。

あの駅を使って、こっち方面の会社じゃないなら、確かに面倒かもしれない。

「いらっしゃいませ」と言いながら店員さんがお冷を持ってくる。

「あ、えーと」

一応さんの了解がいるだろうと思って彼女の顔を見たら深く頷かれた。

少しは加減しようかな、と思いながらカロリーの高いものを頼みまくってみると目の前のさんの目が丸くなり、最後にはくすくすと笑っている。

「以上でお願いします」

「……畏まりました」

店員さんも驚いた様子でテーブルから離れていく。

「男の子って本当に食べるんだねー。ジンくんってばそんなにガタイはよくないのに」

「それ、ちょっとしたコンプレックスなんで言わないでください」

返して一口水を飲む。

「ごめんごめん」と軽く返された。

「そういえば、改めて。この間はどうもありがとう。声を掛けてくれなかったら途方に暮れてたと思う」

言われてさんのその時の表情を思い出した。

「そうでしょうね」

「なので、本当に助かりました。ありがとう。というか、海南大附属高校ってこっちじゃ凄く有名なんだね」

「ええ、まあ。さんは神奈川出身者じゃないってことですか」

「うん。就職でこっちにきたんだ。そういえば、バスケの強豪って聞いたんだけど、部員の仲が良いんだね」

指摘されて少し悩む。

まあ、ギスギスすることは全くないとは言えない。ただ、先輩たちがしっかりしているからだろう、あまりそういうのは出てこない。

「部員で名前呼び合うって珍しい気がしてね」

「名前?」

信長のことかな?

「ジン、って呼ばれてたじゃない?」

「あ、」と思わず声が漏れる。

「それ、苗字ですよ。神宗一郎ってのが俺の名前です」

「え、あ。苗字なの?!そっか、後輩も先輩も名前で呼んでたんだと思ってた」

「まあ、音だけを聞いたら確かにそう思う人は少なくないみたいですけどね」

「いや、実は私ジンくんって言いながら名前を呼んでるんだと思って早く苗字教えてもらわなきゃって思ってたのよね」

何か不都合があるのだろうか。聞いてみると「なれなれしいじゃない」と返されて笑った。

「何で笑うの?!」

「いや、学校まで押しかけてきた人がって思って」

そんな俺の指摘にさんは首を竦めて「だって、お礼をするって約束しちゃったじゃない」と小さく呟く。

「義理堅いんですね」

「それだけあの時の神くんには感謝してるってことよ」

「お待たせしました」

丁度いいタイミングで注文したあれこれが出てきた。

「わー」

笑うさんはどういう意味で笑っているのだろうかと思ったけど、人の財布の中を心配するのは失礼だろうと思って気にしないことにした。









桜風
16.12.22


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