海の見えるまち 5
| まさかこんなことになろうとは……いや、言い出したのは私だけど。 今日は休日で、仕事も学校も休み。 学校が休みでも部活動はある。と思った。 バスケの強豪校、そしてそのバスケ部に所属しているはずの男の子と待ち合わせをすることになるとは…… 事の発端は私の軽い冗談交じりのお願いだった。 「神くんは前にあの駅に居たってことはあそこら辺がが地元?」 「ええ、そうですよ」 「じゃあ、地元案内とかお願いすることってできる?」 休みの日もほとんど泥のように眠っている私は周辺の地理が全く頭に入っていない。 きょとんとした神くんを見て「あ、ごめん。部活忙しいよね」というと「いえ、部活が休みの時でいいなら。日曜とか休みの日なら午後から空くときもありますし」と言われてちょっとびっくりした。 てっきり人当たりのいい笑顔で断られると思った。 「どうしたんですか?」 「断られると思ったから」 「頼んでおいて?」 そう言われると返す言葉がない。 「あまり都合がつく日はないかもしれませんけど、それでよければ」 「じゃあ、お願いします」 基本的に土日祝日は休みだと伝えておいたら、昨日神くんから電話があった。 明日の部活は午前で終わるから、昼過ぎにどうかというものだった。 特に用事もなく断る理由がない。何よりも言いだしっぺだ。 神くんが指定した駅前の待ち合わせ場所に着くとその姿が見えた。時間よりも少し前だというのに。というか、彼との待ち合わせは中々わかりやすくていいなと思ってしまう。 「こんにちは」 声を掛けると彼はちらと私を見て「こんにちは」と今度はしっかり顔を見ながら言葉を返してくれた。 「ナンパかと思った?」 「さっき、そういう意味で声を掛けられたばかりなので」と肩を竦める神くんに驚く。 正直、私だったら声を掛けない。 確かに、神くんはカッコいいと思う。くりくりとした目は可愛いし、黙っていれば美少年の類だろう。そう、背が高いということを除けば。 いや、背が高いのは勿論彼の魅力の一つだ。それは認める。だが、それは知り合いであるから言えることで、全く知らないのにこんな大きな人に「一緒にご飯食べませんかー?」などと言えない。 「多いの?」 「少なくないですよ」 世の中の女の子のバイタリティに感心する。 駅からほどなく歩いたところに商店街があった。 「へー、こんなところがあるんだ」 「そうですね。まだ生き残っている感じはあります」 肩を竦めていう。 商店街のアーケードの下を歩きながら左右のお店を眺める。 あまり長くない商店街だけど、いろんな店が揃っていた。 「観光地?」 「ちょっと外れていますけど」 なるほど、そういうことか。 「神くんもよく来るの?」 「商店街を全部歩いたのは初めてですけど、さっき真ん中あたりにあったスポーツ店にはまあ、そこそこ来ますよ」 「バッシュ?」 「それもありますし、細々としたものとか。大型スポーツ店の方がいろいろ揃っているっていう意見もありますけど、ああいうところって色々な種目のものを幅広く取り揃えているっていう感じなので、時々欲しいものが置いてなかったりするんですよね」 だから、こういう小さな店に来るというのだ。 「球技は色々必要なものありそうだもんね」 「そういえば、さんは学生時代に何かスポーツされていたんですか?」 問われて「まあ……」と曖昧に頷く。 「何を?」 「陸上。球技がてんで駄目だったから正直神くん尊敬します」 暫く歩くと少し広い遊具のない公園という感じの芝生広場に出た。 「あ、ねえ。おなかすいたでしょ?」 見つけてしまった。 「いえ、別に……」 「空いた空いた。神くん言い訳になってよ」 クレープの移動販売店を指差しながら言うと神くんは苦笑を零す。 「……空きました」 「よくできました。何食べる?」 お店に向かって歩きだす。態々立ち止まってする会話でもない。 神くんはゆったりと私の後を歩いている。脚が長いからゆったり歩いても十分なのだ。 「神くんは甘いの好き?」 「食べますけど、今はしょっぱい系ですね」 「レタスが入るやつかー」 クレープはおやつっていうカテゴリーに入れているから、レタス入ってるのは食べたことがない。美味しいのかな? 「さんは?」 「いちご生クリーム一択」 たまにトッピングを悩むけど、私のベースはいちごの生クリーム。カスタードクリームは好きじゃない。 お客さんが全員捌けたようで、今なら待つことがなさそうだ。 思わず駆け出してしまった。 メニューの前で立ち止まって振り返ると、神くんは先ほどよりは少し早く歩いている。 「お決まりですか?」 店員さんに声をかけらえた。 「いちごの生クリームと」 振り返るともう目の前に神くん。 「何にする?」 「ハムチーズレタスですかね」 ちらっとメニュー表を見て彼が言う。 「ハムチーズレタスひとつお願いします」 「お会計は別々ですか?」 「はい」「いいえ」と私と神くんの声が重なる。 「さん?」 「まあ、今回のお付き合いいただいているので」 バッグから財布を出しながらいうと神くんは何か言いたそうな表情をしている。 さっさと会計を済ませて神くんが手も口も出せないようにしておいた。 商品を受け取って神くんを振り返ると、むっとした、不服そうな表情を浮かべている。 おそらく、私が代金を持ったことについて彼のプライドを傷つけたのかもしれないが、それでも休みの日に態々付き合ってもらっているのだから、大人としてこちらもお礼がしたい。 ……大人って難しいな。 |
桜風
16.12.22
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