| 縁側に座って空を見上げると、今日は朧月夜だというコトに気付いた。 はっきり見える月も良いけど、こうやってぼやけている月は、何だか儚げで好き。 「よう」 頭の上から声がした。 空を見上げる視線をそのまま上げていくと腕が見える。 顔までは距離があって角度も悪いのだろう、さすがに見えない。 「おかえりー」 「何してんだ?」 そう言って楓が隣にスッと座る。体は大きいのに、そういう動きは凄く静かで無駄がない。 さすが家元の息子ってトコロか? 「変なこと考えてただろ」 「変なことって?」 聞いてみると、面倒くさくなったのか 「...やっぱいい」 と言って楓も空を見上げる。 「朧月か」 「ですよ」 「着替えねぇのか?」 私は今着物を着てます。 今日はお稽古の日でしたので、流川家にいるのだが... 「面倒だし、今日はお母さんが迎えに来てくれるからこのままでいいかなーって」 そう言うと楓は立ち上がり、 「おばさん、いつ来るんだ?」 と聞いてくる。 「まだあと30分待たせてもらうことになるよ」 そう答えると 「ちょっと待ってろ」 と言って部屋に帰っていった。 少しして部屋から出てきた楓は着物に着替えていて。 体が大きいのに、というべきか。大きいからと言うべきかちょっと悩むけど、その姿が凄く様になっていてやっぱり只者ではない、と思ってしまう。 「ちょっと付き合え」 そう言って楓はお稽古の部屋へと向かった。 「もう殆どお花ないよ?」 「てことは、少しはあるんだろ?」 そう言って障子を開けて部屋に入り、花器を前に座る。 私はその斜め前に座った。 大きな手をしているくせに、指が長いから繊細そうなそれに見えて。 それが器用に花を生けていき、いつの間にかその様子に見とれていた私に、 「寝てんのか?」 と無神経に声を掛けてくるのもその手を持つ楓で、何て理不尽なんだと思ってしまう。 「起きてる」 楓じゃないんだから! 「すげぇ静かだから寝てんのかと思った」 そう言いながらも楓の手は動いて、あっという間に芸術品が完成した。 「ねえ、バスケ楽しい?」 こんな凄い特技を持っているのに、バスケばかりで。少しだけ勿体無いって思うのは私だけじゃないと思う。 でも。「楽しい」と簡潔にそっけなく、一言そういった楓の声は凄く暖かくて、「バスケ馬鹿め」と思わず呟いてしまった。 「何か言ったか?」 「ううん。それはよろしゅうございましたねーって思って」 そう言うと、「ふーん」と適当な声が返ってきた。 「そういえば、頭大丈夫?」 「は?」 眉間に皺を寄せて、睨んでいるような。そんな顔をされた。 「だから、今日保健室に行ったでしょう?」 「初めからそう言え」 「はいはい。ごめんなさいねー。幼馴染ゆえの以心伝心が働くかと思ったんだけど」 そう言うと、楓の眉間の皺は更に深くなり、 「おめぇだって鈍いだろうが」 と言われた。 「あー、ゴメンナサイ。至らない点が多いようですね」 投げやりに言うと、楓はこれ見よがしに深い溜息を吐いた。 何もコメント無でそういうことをする楓ってちょっとムカつく...! 「で、頭」 話を戻すと、 「保健室で寝てた。最初はすげぇビックリされたけど、眠たすぎて階段を踏み外したとか言ったら寝てなさいってベッドを貸してもらえて」 「快眠できたんだ...?羨ましいなぁ」 私はそのあと、数学のおっちゃんに当てられて面倒くさかったんだから... 「バスケ部、いつから?」 「そろそろ」 「知ってる人が居るんだよね?」 「マネージャーやってるって。もやるか?」 「ガラじゃないねぇ〜」 「だよな」 そんな会話してると、楓のお母さん、つまり私のお師匠さんが呼びに来てくれた。 「お母様がお見えになったわよ」 「ありがとうございます」 そう言って立ち上がり、側においていた荷物を抱えた。 「貸せ」 と言って楓が半分以上持ってくれる。 「ありがとう。では、先生。失礼します」 「はい、また来週ね」 優雅に手を振りながら先生は言った。 荷物を車に乗せて、 「じゃあ、また明日ね。ありがとう」 と挨拶をすれば、 「言い忘れてた」 と一言。 見上げると 「高校の制服、似合ってる」 とまたしても一言。 ただ、視線を外してそんなことを言う楓が少しだけ可愛く見えて、 「オッサンくさいなー」 とからかってやった。 |
桜風
07.8.6
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