xxx 3






家に帰ると、縁側にが居た。

艶やかな着物姿に、少しだけ驚く。

高校に上がるとか、そういうのは単なる区切りで、それこそ、何も変わらないと思っていたのに、は何だか変わったような気がする。

「よう」

といつものように声を掛けたら、空を見上げていた顔をそのまま上に持ってきて俺を見上げた。

「おかえりー」

というのんびりした声は、昔から変わらず、普段のは意外とおっとりタイプなんだ。

怒ったら怖ぇけど...

「何してんだ?」

空を見上げて何を見ていたのか、と思い声を掛けてみるとの目が笑う。

「変なこと考えてただろ」

「変なことって?」

聞き返されたけど、具体的に何と答えられるはずもない俺は

「...やっぱいい」

と言って空を見上げる。

「朧月か」

儚げな朧月は意外と趣があって俺は好きだ。

「ですよ」

笑いながらが同意する。

「着替えねぇのか?」

着物姿のに少しだけ落ち着かずに聞いてみると、あっけらかんと答えられた。

でも、まあ。

時間が有るなら久しぶりに、と思って部屋に戻り、着替えた。

「ちょっと付き合え」

稽古部屋へと向かう俺の背中に

「もう殆どお花ないよ?」

と言う声が掛かる。

「てことは、少しはあるんだろ?」

そう言って障子を開けて部屋に入り、花器を前に座る。

は俺の右斜め前に座った。

花を生けているとが静かになり、俺の手元をじっと見ていて落ち着かなくなったから

「寝てんのか?」

と声を掛けたら

「起きてる」

と憮然と答えた。

「すげぇ静かだから寝てんのかと思った」

そう言いながら手を動かして、久しぶりに花を生けるというコトをした。

「ねえ、バスケ楽しい?」

花を直していると、不意にそう声を掛けられる。

「楽しい」

素直にその言葉が口から零れた。

は何か一言呟いた。あまりにも小さな声で聞き取れなかったが、の表情を見てるといいことを呟いた感じではない。

「何か言ったか?」

聞き返すと

「ううん。それはよろしゅうございましたねーって思って」

と言う。やっぱり碌なことではないんだろう。

「そういえば、頭大丈夫?」

突然そんな失礼なことを聞いてきた。

「は?」

聞き返すとちょっと溜息混じりに

「だから、今日保健室に行ったでしょう?」

という。

のこういうところ、可愛くねぇ...

「初めからそう言え」

「はいはい。ごめんなさいねー。幼馴染ゆえの以心伝心が働くかと思ったんだけど」

「てめぇだって鈍いだろうが」

と思わず言った。

本当に、無神経なくらい全然気付かない鈍い女なんだ、は。

「あー、ゴメンナサイ。至らない点が多いようですね」

だから、そう言うところが可愛くねぇって...

「で、頭」

が話を戻す。

「保健室で寝てた。最初はすげぇビックリされたけど、眠たすぎて階段を踏み外したとか言ったら寝てなさいってベッドを貸してもらえて」

気持ちよく授業をサボれた。

家に連絡すると言われたけど、それは何とか思いとどまってもらった。

「快眠できたんだ...?羨ましいなぁ」

真面目に授業に出たらしいが本当に羨ましそうに呟く。

ちょっとだけ嬉しさが増した。


「バスケ部、いつから?」

余った花を触りながらが聞く。

「そろそろ」

「知ってる人が居るんだよね?」

「マネージャーやってるって。もやるか?」

「ガラじゃないねぇ〜」

「だよな」

そんな会話してると、お袋がを呼びに来た。

「お母様がお見えになったわよ」

「ありがとうございます」

そう言っては立ち上がり、側においてある荷物を抱えた。

「貸せ」

と言って持ってやる。

「ありがとう。では、先生。失礼します」

「はい、また来週ね」

手を振りながらお袋は挨拶を返した。


荷物を車に乗せて、

「じゃあ、また明日ね。ありがとう」

と言っては車に乗り込もうとした。

「言い忘れてた」

と一言。

言い忘れていたと言うよりも言い損なっていた。

が振り返って見上げてくる。

「高校の制服、似合ってる」

言ってみた。

ただ、こんなことを態々口に出したことが恥かしくてを見ないでそう言うと、

「オッサンくさいなー」

と笑いながらがそう言う。

うるせぇ...

は車に乗り込み、窓を開けて手を振った。

俺も手を上げてそれに応え、車が見えなくなるまで見送ってやった。










桜風
07.8.10


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