| 授業の間の10分の休憩時間にも神は教室の入り口で女の子達に囲まれていた。 チャイムが鳴って、中々帰ろうとしない子を宥めて自分の席に戻ってくる。 「モテモテだね」 わたしが声を掛けると神は驚いた顔をした後、 「そうだね」 と困った顔をして笑った。 神とわたしは小学校中学校共に一緒だったけど、その9年間で1度も同じクラスになることなく今年高2になって初めて同じクラスになった。 小学校の時には何度か一緒に遊んだことすらあるのに、それ以外の接点は持っていなかった。 お互い高校まで同じになるとは思っておらず、入学式にばったり出会った時には指さして笑った。 1年のときは神が1組でわたしが5組。つまりは端っこ同士だ。数字的には一番遠いけど、うちの学校の教室の配置の都合上、教室は一番近かった。 だから、辞書など借りに走るときはすぐ近くの神のクラスに走って借りていた。 学校が12年間一緒となることが内定しているわたしたちは結構気さくに話をすることが出来、たぶん、それは小学校からの付き合いだったから出来たんだと思う。 学年が上がるにつれて神は女の子から人気が出てきて、『巻き添えを食らいたくなければ近づくな』という暗黙の了解が普及していた。 別に巻き添えを食らいたいとか全然思ってないけど、でも、友達が減るのは寂しいって神がクラスメイト言っていたのを偶然聞いてしまったわたしは神の友人を辞めるわけにはいかなくなった。 別にそれを苦痛とも思っていないから良いんだけどね。 とても退屈な物理の授業中、後ろの子が背中を突付いてくる。 「神に回して」 と言われて受け取った小さく折りたたまれた紙片。 「神」 前の席に座っている神の大きな背中を突付く。 「だから、くすぐったいって」 意外とくすぐったがり屋さんの神は背中を突付くと体を引いて眉間に皺を寄せながらそう言う。 「ごーめん」 じゃあ、授業中に神を呼びたかったらどうすればいいのだろう? そんなことを思いながら回ってきた紙片を神の大きな手に乗せる。 「誰?」 「知らないけど、神にって」 そう言うと神は振り返って「俺?」と聞き返す。 「おい、こら。そこ、何やってる。!」 何故わたしの名前しか呼ばれないんだろう... 「すみません。俺が消しゴム忘れたんで貸してくれってさんにお願いしてたんです」 そう言ったのはわたしの前の席の神。 先生は「そうか」と言って少しバツが悪そうだった。 「ありがと」 「ううん。俺宛の手紙回しててが怒られたんだからさ」 そう言って消しゴムも持って前を向き直る。 え、それは困る... 仕方ないから筆箱に入れておいたもう1個の殆ど消滅しかけている消しゴムを取り出して理解不能な板書をそのまま書き写していく。 コツン、と机を弾かれて顔を上げると神が 「これ、ありがとう」 と消しゴムを返してきて、その消しゴムのケースにさっきよりも更に小さく畳んだ手紙を挟んでいた。 「どういたしまして」 と言ってそれを受け取り、手紙を抜いた。 先生が板書をしている隙に後ろの子に、「神から返し」と言って回していく。 前を向けばまた机の上にノートの切れ端で作った手紙が置いてあった。 宛名は『様』で、つまりはわたし。 見慣れたその字は神のそれで、何だろう?って思った。 『そういえば。最近、とどうなの?』 そう書かれていて驚いた。そんなの休憩時間に聞けば良いじゃん。 わたしはこう見えて彼氏持ちというやつだ。 そのわたしの彼氏のは、神と並ぶモテモテ君で、なんでわたしが彼と付き合っているのかが分からない。 それこそ、最初は嫌がらせのようなものも受けたけど、結局が収めたらしく今では受け入れられている様子だ。 と言っても。まあ、ね? たぶん、これは側にいるからこそ肌で感じてしまったことだと思う。 は、神に対抗心を持っている。 だから、神と仲が良いわたしと付き合おうとしたんじゃないかな? つまり、わたしはのプライドのためにその側に居るのだ。 それはまるで、人形だ。 それでも、一応。は優しいし、彼氏としては悪くないからわたしも何も言わないでそのまま恋人ごっこを続けている。 けど、神には何も言ってない。「は良い彼氏だよ」とそれくらいしか言えない。 神は凄く勘がいい。だから、との話をすればするほど塗り重ねている嘘がばれてしまう。 『変わんないよ』 そう一言書いて宛名の『様』に二重線を引いて『神宗一郎様』とその上に書いた。 「神」 突付くと嫌がるから、声を掛けると振り返ることなく大きな手だけがわたしの机のすぐ下までやってくる。 ぽい、とそこに手紙を置くとそれは私の見えないところへと行ってしまった。 そういえば、神の手はの手よりも大きいな。 今更ながらそう思う。 背が高いから神の方が大きくて当たり前かもしれないけど、優しそうなその手は、神の勝ちだと思った。 |
桜風
08.7.3
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