優しさに包まれて 3





神と約束の日、わたしは予告どおりに家で神の訪問を待っていた。

小学校から一緒だった神とは家は近い方で、お互いの家の場所も言わずもがなで知っている。1度も同じクラスになったことが無いというのに。

それを考えたら『変なの』と思うけど、結局その近所。わたしの場合はマンションお隣の部屋に神と6年間同じクラスだった子が居たから向こうは知ってるんだと思う。

何度かこのマンションの中に居る神を見たことがあるし。

結局そのお隣さんは中学に上がってから引っ越していったからもういないけど。


インターホンが鳴って出てみると神が立っていた。

「ちょっと待って。鞄取って来る」

「わかった。先に下におりてるから」

そう言って神は玄関先から居なくなり、わたしは慌ててリビングに置いている鞄を取って階段を下りた。

「何処に行こうか?」

「神のお姉さんって、今年で大学卒業だっけ?」

「えーと...」

考え始めた神に思わず「オイオイ...」と言いたくなる。自分のお姉ちゃんでしょ?

「たしか、そうだったと思う。大学院がどうこうって話してたから」

そうか。20代前半のお姉様か。

「じゃあ、さ。臨海公園のショッピングモールは?あそこなら結構何でも入ってるし」

わたしが言うと「じゃあ、そうしよう」と神は頷いた。

臨海公園へ行くために駅に向かう。


暫く電車に揺られて目的の駅に着くと、さすが休日。人がごった返していた。

まあ、神は背が高いからはぐれても見つけやすくて良いわ。

そんなことを思っていたわたしの手を、神の大きな手が包み込む。

「じゃあ、行こうか」

全く躊躇いも違和感も無く、わたしの手を引いて神は人ごみをすり抜けて駅の外に出た。

動揺している自分が滑稽に思えるほどに神は全く自然で、少しだけ悔しいと思った。


ショッピングモールの入り口に立ち

「まずは何処にする?」

と神が見下ろしてくる。

「予算に依るけど。そうだな、まずはここは?」

「んー、よく分からないけど。行ってみようか」

本当に興味がないらしく、取り敢えずわたしが指差したショップを目指してエスカレーターを上った。

長身の神は目立つ。ついでにあのルックスだから下りエスカレーターに乗っているお姉さん方は名残惜しそうに神を振り返っていた。

そして、そんな視線を向けられている神は、全くそれに気付いていないかのように全然反応しない。

「神ってやっぱり目立つんだね」

しみじみとさっきから観察していたこの状況を口にする。

「まあ、ね」

神は肩を竦めて困ったように笑った。

何処に居ても神は目立ってしまう。それを羨ましがる人は沢山居るだろうけど、神は迷惑そうだ。

学校でもそんな感じのことを言ってたし。

「カッコいいのも大変なんだね」

神を見上げて言うと

だって目立つでしょ?」

首を傾げながらそう言った。

そう、だったっけ?

は確かに学校内では神と同じくらい人気は有るけど。外ではここまで目立つことは無かったと思う。

そもそも、とは改めてのデートなんて殆どしてないし。

ああ、そうだ。とデートなんて付き合い始めの数回だけだ。

神とこの話をするまで全然気付かなかった。

「...?」

「へ?あ、なに??」

「聞いてないし」と呆れながら神が呟き、「此処でしょ?」と言って店内のデザインがお洒落なショップを指差した。

ショップの看板を見て「ああ、うん。ここ」と返事をして店内に足を運ぶ。

「お姉さんの好きな小物とか分かる?」

「それが分かったら苦労してないよ」

苦笑いを浮かべる神。

ああ、宿題に出しておけば良かった。お姉さんが着る服は何色が多いかとか。

しかし、無難なものは避けたいと言っている神。


仕方が無い。じっくり腰を落ち着けて神にリサーチするか。まだ時間はあるし。

その旨を神に話し、神もその方が良いだろうと賛成したため一旦そのショップを後にして同じショッピングモールに入っているカフェへと向かった。

途中、神が足を止める。

「どうしたの?」

見上げて聞くと、

「あ、いや。別の店にしない?俺、和菓子の方が良いな」

突然そう言い出す神が凄く奇妙だ。

チラチラとわたしたちが行こうとしている先を見ている。

何だろう、と振り返ると

「見ないほうが良い」と神の大きな手がわたしの目を覆うために近付いてきたけど、それよりも早くわたしはその光景を目にしてしまった。

がわたしの知らない子とキスをしていた。

腕を組んで買い物をしていたとかだけだったら、お姉ちゃんとか妹とか。そういう言い訳されても仕方なく納得できるけど。

これは、流石に...


でも、何となく分かってた。

わたしは、が側においておきたかった人形だっただけ。

別に好きとかそういう恋愛感情は向けられていなかったように感じていたし、わたしの方も大してそんな感情を抱いていたわけでもなかったと思う。

それでもやっぱり、少しは胸が痛い。

神の温かい手がわたしの目を覆っている。

「和菓子に、しようか」

そのままわたしは神に言った。

「うん」

神はわたしの手を引いて別の、和風のカフェへと向かう。

神の手から伝わる体温は、わたしを落ち着けるのに丁度良いものだった。









桜風
08.7.16


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