| 「神はさ、知ってたんじゃないの?のアレ」 店員に注文を済ませて水を一口飲んで神に聞く。 神はあからさまに驚いた表情になって、言葉に詰まっていた。 「やっぱり。だからこの間、のことを思い出したかのように聞いたんだ?」 少し視線を彷徨わせて神は頷いた。 「別れたって話を聞いてないし。でも、さっきみたいな光景を見ちゃったから。どうしたのかなって思って聞いたんだ。そしたらは変わらないって返事するし。じゃあ、俺の見間違いかなって思ってたんだけど...」 「本当だった、と」 神は無言で頷く。 わたしはそのまま沈黙して窓の外の景色を眺めていた。幸せそうに手を繋いで並んで歩くカップル。 羨ましいとかそういう感情が湧かない自分にちょっとだけ悲しくなる。 わたしは、もしかしたら感情が欠けているのだろうか? 世間では彼氏の浮気現場を目撃してしまったら感情の高ぶりを見せるのだろう。きっとそういう人が多い。 だから、神もわたしを心配している。 けど、多少のショックはあったものの、そんなに感情は振れていない。 こういうときは問い詰めてしまったほうが良いのか、それともあっさり今日見た事を話して別れるべきかが分からない。 さてさて、どうしたものか。誰か教えてくれないかな? 何より、目の前の神の纏うわたしを気遣う雰囲気をどうにかしてもらわないと凄く居心地が悪い。 かと言ってわたしからそれを指摘すれば、ずっと黙って心配してくれていた神に悪い気もするし... 神のお姉ちゃんの誕生日プレゼントも考えなくてはいけないというのに、のお陰で問題が一気に山積みになってしまった。 わたしと神の間には重苦しい空気が漂う。 それを払拭するが如く店員の明るい声がやって来て先ほど注文したものを持ってきた。 「うわ、美味しそう!」 「そう、だね...」 ぎこちなく答える神に、仕方ないから本当のことを話すことにした。 とわたしのこと。 と一緒にいて感じていた事。たぶん、これは神に言わないほうが良かったんだと思う。けど、今この状況では話さないと納得してくれそうもない。 わたしの話を聞き終わった神は珍しくあからさまに不快感を露にする。 「何だよ、それ」 憮然と呟く。 「これは飽くまでわたしがと一緒に居て感じたものだから、実際は分からないよ。本人から聞いたわけでもないし。だから、さ。さっきはビックリしたけどもう全然大丈夫。心配してくれてありがとうね」 わたしがそう言うけど、神は全く以って納得できないという表情を浮かべている。 神にしては珍しい。大抵、彼は穏やかな表情をしているというのに。 「取り敢えずさ。わたしたちが今一番直面している問題から解決しない?」 神は一瞬驚いた顔をした。 「神のお姉さんの誕生日プレゼント選び。時間ないんでしょ?」 神は溜息を吐いて「そうだね」と呟いて目の前の団子を口に運んだ。 そして、神にお姉さんの趣味や好きなものを思い出してもらおうと頑張ってみたものの、意外と興味を示していない姉の事を覚えていないようで、結局リサーチの意味がない。というか、リサーチできなかった。 神は学校では結構気配り屋さんだから家でもそういう洞察力を発揮しているものと思っていたけど、そうでもないというのが今やっと分かった。 「じゃあ、さ。今日買うものは仕方ないから無難なものになっちゃうけど。誕生日当日に花束を買ってプレゼントしてあげなよ」 わたしの言葉に神はあからさまに嫌そうに顔を歪める。 「恥ずかしいよ。自分の実の姉に花束なんて」 「花束貰って嫌な顔をする人は殆ど居ない。お姉さん、彼氏さん居るの?」 「たぶん。そんな雰囲気は有るけど...」 思い出すように少し上を向いて言った。 「で、花束を持って帰ったことは?」 「ないよ、きっと」 「じゃあ、決定。神は誕生日当日お姉さんに花束も一緒にプレゼントする」 「だから何で?」 神は凄く不満そうな声で聞く。 「お姉さんの良い反応を見たいんでしょ?奥の手だよ。かなり有効なはず」 自信満々に答えると神は諦めたように溜息を吐いた。 「じゃあ、どんなのが良いと思う?」 「お姉さんの誕生日までに好きな色を聞くなり、観察して考えてみるなりしなよ。花屋さんに言ったらちゃんと良いの作ってくれるから」 神は、わたしのアドバイスに「了解」と諦めたように手を挙げて呟いた。 |
桜風
08.7.23
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