| わたしが知っている神のお姉さんなんて小学生のときまでしかないから、どんな趣味を持っていて、何が好きそうかなんて全然想像できずに、本当に定番のよくあるプレゼントしか選べなかった。 これって、頼ってきた神に申し訳ないなって少しだけ思う。 「ありがとう。助かったよ」 ショップから出て神がそう言う。 「本当に?これなら神も考えたんじゃない?」 そう聞くと 「ううん。俺、毎年ハンカチにしてたから」 と首を振る。 毎年、ハンカチ。そりゃお姉さんの反応もイマイチになるかも... 今日の目的の買い物が終わったため、駅へと向かう。 「ねえ、」 「ん?」 神が次に言う言葉は何となく想像できる。 「の、どうするの?」 ほら、やっぱり。 「まだ考えてない。別に、すぐにどうこうしないと困るって事もないから、わたしの場合」 そう答えると神は少しだけ悲しそうな目をする。 「何で神がそんな目をするの?」 そっちの方が困るよ... 「いや、だってさ」 「言ったでしょ?大丈夫だから」 そう言って高いところにある神の肩をポンと叩いた。これでこの話はお終い。 駅から我が家は比較的近いというのに、神は態々家まで送ってくれて。そういうところを見るとわたしたちも何だか大人になっていってるのかなって思う。 いや、寧ろわたしは変わらないだろうけど、神のみが大人になったのかな? 翌日から神は休憩時間もわたしに構っている。 もしかしたら、今まではわたしにはが居るという事もあって気を遣っていたのかもしれないけど、それはもう気にしないようになったのかも。 そんな神の様子を不審に思ったクラスメイトたちに色々聞かれたりしたけど、別にわたしと神の関係が変わった事もないからそう答えておいた。 それが数日も続けば少しずつ、秘かに噂が流れる。 『わたしがと別れて神を誘惑している』と。 『誘惑』という単語を耳にして思わず吹き出した。 「ちょっと、笑い事じゃないでしょ!?」 親切にも教えてくれた部活の仲間に怒られる。 「いや、だって。神を誘惑できる人っているの?少なくとも、わたしにはそんな度胸はないよ」 そんな人が居て、そして神が靡いたらぜひともその人とお友達になってみたいものだ。 「気楽ね。たぶん、君の耳にも入ってるんじゃない?最近本当に神くんと仲が良いもん」 「ふーん」 「『ふーん』って...気まずくなっても知らないよ」 着替え終わった彼女は部室から出て行った。 気まずくなるほどお互い執着心があるのかしら? 少なくとも、わたしには無いな... シャツのボタンを留めて鞄を持ち、部室の電気を消して部屋を出た。 部室の前にいた人物を見てわたしは一瞬足が止まる。 そこ人物は、今噂に上っていただった。 「、今いいか?」 「いいよ。あとは帰るだけだから」 と肩を並べて部室棟から出て行く。これまた久しぶりだ。と帰るのなんてどれくらいぶりだろう? 「あのさ、が浮気してるって噂を聞いたんだけど。いや、俺はお前信じてるよ。けど、良いことじゃないだろうなって思って。神と一緒に居るの控えてくれないか?」 あ、今やっとにムカついた。 「いやよ。交友関係にまで口出しはしないでもらいたいわ」 大抵の事には関心がないために今まではの言葉に頷いていたわたしの初めての反抗。 これにはは驚いたようだけど、それと同時に激昂した。 「はあ!?ふざけんなよ。お前は俺の言葉に頷いてりゃいいんだよ」 「わたしはの人形じゃない!」 の目が怒りに揺れていた。 突然腕を掴まれて乱暴に背中を壁に押し付けられる。 「お前、今俺に向かって何て言った?」 「わたしはの人形じゃない。神に対抗するなら別のことで対抗しなよ!それに、」 言葉を続けようとしてそれが叶わない。 突然が乱暴にわたしの唇を塞いだ。思いやりの欠片も何もないそれに吐き気すら覚える。 無理矢理わたしの口内を犯し、そして漸く酸素を求めてそれが離れる。 「それに、に、浮気どうこうの、話をされる筋合いは、な、いと思うけど?」 酸素が足りないのはわたしも同じ。 息を継ぎながらさっきの言葉の続きを口にした。 「は?!」 「この間、臨海公園のショッピングモールで女の子とキスしてたでしょ?人目も憚らずに。わたし、見たのよ」 「あ、あれ、は...」 明らかに動揺を始めた。 「もうさ。お互いの本心分かっちゃったんだし。仮初めの恋人なんて出来ないでしょ?別れようよ」 「違う、あっちは遊びで。俺はお前が、お前だけが好きなんだよ」 必死に縋りつくように紡ぐの言葉は薄っぺらくて逆に滑稽だ。 「遊びで女の子とキスできる人とは、付き合えない。今までありがとう。学校の中では、は良い彼氏だったよ」 その場を去ろうとしたらまたしても腕を掴まれる。それは、力いっぱいに。 「痛い、離して」 「誰が離すか。何度も言わせんな。お前は俺のもんだ」 「イヤって言ってるでしょ!離して」 「良いから来い!」 グイグイと力いっぱいに引っ張られてわたしの抵抗も空しく、校舎の中に連れて行かれそうになった。 「離してあげろよ」 不意に耳に届いた声に顔を上げる。 「神!?」 はわたしをぐいと引っ張り、自分の後ろに隠す。 「が嫌がってるじゃないか」 「煩い!は俺のもんだ。お前には渡さない」 「は物じゃない。俺たちと同じ人間だ。にも選ぶ権利は十分にあるし、それを否定する権利は誰にも無い」 いつもよりも強い神の口調。 神の瞳は、象徴とも言えるはずの穏やかなそれではなく、剣を孕んでいる。いつも静かなそれが怒りを表している。 その瞳を目にしたわたしの背中にぞくりと悪寒が走った。 |
桜風
08.7.30
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