優しさに包まれて 6





神の雰囲気をいつものそれと違うように感じたのはも同じようで

「お前には、関係ないって言ってるだろう!」

気圧されながらも言い返す。

「あるよ。を大切にしているならそれでいい。けど、が怖がって嫌がっているその状況を見て見ぬふりなんて俺には出来ない」

神は1度言葉を区切り、まっすぐわたしの目を見る。

「俺は、が好きだから」

暫く呼吸を忘れていた。

耳に届いた言葉が理解不能な、どこかわたしの知らない外国の言葉のようにただ意味を持たずに頭の中を巡る。


やっと神のたった一言の言葉を理解すれば、今度はどうして良いか分からずに混乱する。

神の目を見るといつもの優しい瞳を細めて微笑む。

その表情は不思議と、どうしようもなく安心する。

だけど、そんなわたしたちに気付いたのかがわたしの腕を掴んでいる手に力を込める。

痛みに顔が歪む。

「痛がってるよ、が」

落ち着いた声で神が言う。

そんな余裕のある神に対しは顔を歪める。1度わたしを振り返り、そして手を離した。

「後悔させてやる」

低く唸るような声が耳に届いた。

それでも、わたしはの側に居るのが怖くて神に駆け寄り、その背に隠れる。

神は少しだけ後ろのわたしを気にして「大丈夫?」と声を掛けながらも、視線の先にはを置いていた。

はわたしたちを睨みつけてそして正門へと向かう。


緊張の糸が解け、膝が震えて一人で立っていられずにその場に崩れた。

怖かった...

そんなわたしに気付いた神がわたしをひょいと抱えて非常階段のところまで運んでくれる。

この時間ともなれば非常階段に人通りは少ない。

階段に座らせてもらった。

「ありがとう。ねえ、部活は?」

神を見上げると驚いたように目を大きくして、困ったような笑みを浮かべながら「すぐに戻るよ」と簡潔に答える。

でも戻る気配は無くて、神は天を仰いで「あーあ」と呟く。

「なに?」

「さっきの。本当はさ、もっとカッコつけたかったのになって思って」

と苦笑いを浮かべる。

「さっきみたいにものの流れでじゃなくて、ちゃんと告白したかったのにな」

改めて神にそう言われたわたしの頭に心臓の音がやけに響く。

「別にに応えてもらいたいとか思ってないから安心して。あ、勿論応えてもらえるなら嬉しいけどね」

そう言って余裕たっぷりににこりと微笑む。

「あ、あのさ...」

「いいよ、今すぐの気持ちを聞きたいとか思ってないから。ただ、これが原因で避けるのだけは勘弁してほしいな。絶対にへこむ」

笑いながらそう言った神は「じゃあ、また明日」と何事も無かったかのように体育館へと戻っていった。


残されたわたしの頭の中には2つの言葉がある。

神のわたしを好きだと言った言葉。

そして、の後悔させてやるという言葉。

2つが合わさると、どうしようもなく不安な気持ちが強くなる。

さっき、神がしたようにわたしも空を見上げてみる。

鮮やかな夕焼け空は、何だか却って不気味に感じた。









桜風
08.8.6


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