| と別れた翌日からわたしは誰かの嫌がらせを受けるようになった。 誰か、というのは特定できないくらいの人数だろうと予想されるもので、これはと付き合い始めた頃と似てるな、なんて他人事のように思った。 放っておけば騒ぎは静まるだろうと思っていたけど、1週間経った今もそれは続いている。 今回は規模が大きいなとか思っていたけど、その行動の元になっているであろう噂を耳にしてやっと納得した。 『は神を騙して丸め込んで浮気をして、彼氏だったを振った』 へー...わたしそんなに器用だったんだ。 神はそんなに単純だったんだ? を振ったのは本当だなぁ... 噂を耳にして思ったのはその3つ。 正直馬鹿馬鹿しい。 しかし、わたしが馬鹿馬鹿しいと思っても両者のファンの子達は憤ってるんだろうなと思う。 あ、そうか。 と付き合い始めたときより規模が大きいのは神のファンも加わっているからか。 なるほど... 自分でもビックリするくらいに関心が無くてこれはこれで自分が心配になる。 「ねえ。、最近元気ない?」 不意に声を掛けられて見上げると神が立っていた。 「そう?」 「うん。何か、ね?どうかした?」 目の前の席に座りながら神が聞いてくる。 「うーん。これと言ってそんな自覚ないけど...」 そう答えても神は信じてくれないらしく、じっとわたしの顔を見ている。 その視線が居心地悪くて「ちょっとトイレ行ってくる」と席を立った。 トイレに向かう廊下で「おい」と声を掛けられた。 振り返るとが腕組みをして壁に背を預けている。 「。俺とよりを戻す気になったか?」 「なんで?」 ワケわかんない。 わたしは一言そう返してトイレへと向かった。 トイレの個室に入ると外で気配がする。わたしの勘が警鐘を鳴らす。 慌てて個室から出ようとしても、外から押されているらしくドアが開かない。 「ばーか」という言葉の後にバケツと水が降ってきた。 うわ、ドラマとかでよくある展開だ。 ぎゃはは、という笑い声が遠ざかっていき、びしょ濡れのわたしが個室から出て行くともうそこには誰もいなかった。 この格好のまま教室になんて戻れない。幸い、ここは階段のすぐ側だし外は快晴だ。 わたしは迷わず屋上へと向かった。 屋上に出て空を見上げると雲ひとつ無い青空で、清々しい。 こんなずぶ濡れでなかったら取り敢えず座ってうたた寝くらいしていたかもしれない。 けど、今のわたしは座ることも出来ずにただ立ち尽くしていた。 座ったら確実に制服が汚れるし、そうなったら中々取れそうにない。 フェンスに手を掛けて外の景色を眺める。 「どうしたんだよ、!」 ゆっくり振り返るわたしに対して慌てたように駆け寄ってくる神。 何で神も此処にいるんだろう? 「中々戻ってこないから心配になったんだ。ねえ、は何でずぶ濡れなの?」 怒ったような口調で神が聞く。 「水を被ったから、かな?」 首を傾げて言うと神の目つきが険しくなる。 「どこで」 「女子トイレ」 「何で?」 「さあ?」 神は目を瞑って溜息を吐いた。昂ぶった自分の気持ちを鎮めるように。 「ねえ、。困った事があったらちゃんと言ってほしい。友人として、頼ってほしいよ」 神はまっすぐ私の目を見てそう言う。 「うん。でもね。わたし、こんなことされても『困ったなー』くらいしか思わないんだよ。もしかしたら、感情が欠落してるんじゃないかって心配してるんだけどね。だからさ、今こうしてずぶ濡れになってても『着替えは教室にあるから戻れないし、さて、どうしたもんか』くらいにしか感じてないんだ。呆れてはいるけどね。神みたいに怒ることはないんだ。そんな自分が一番困ったよ」 わたしの言葉に神は悲しそうに目を伏せる。 「俺があの時、口出ししたから?」 俯いて呟く。 「ううん。あの時は本当に助かったと思ってる。だから、仮にそれが原因でこうなったとしても私が神に感謝している気持ちは変わらないから」 「でも、」と言い募ろうとして神は口を噤む。 そして改めてまっすぐにわたしの目を見て口を開く。 「ねえ、。この間俺が言った事覚えてる?」 「どれ?」 「俺が、を好きって言った事」 さらりと神に言われて一瞬面食らってしまった気分だったけど頷く。 「だから、俺にを守らせて」 神の言葉にまたしても呼吸が止まる。言葉じゃない、わたしが呼吸を忘れてしまうのはきっと神の瞳のせいだ。 「ああ、違うな。そうさせてもらうから。の許可、貰わないよ」 そう言いきって神は屋上を後にした。 1度戻ってきて 「部活の服ってどの鞄に入ってる?持ってくるよ。部室で着替えたら良いだろ?」 とさっきの宣言は何でもないかのように普通に声を掛けてきた。 神って凄く不思議な存在だと思った。 |
桜風
08.8.13
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