掌への逆襲





の手に書いた日。つまりは、練習試合の日。

驚いたことに俺は寝坊しなかった。

そんなつもりはないんだけど、意外にも緊張していたようだ。


アップをしてるときもソワソワしてて監督と越野に散々叱られる。

ホントは昨日、電話しておこうかとも思った。

明日だよ、道分かる?って。

けど、声を聞いたら眠れなくなりそうで、「やっぱ行かない」とか言われそうで結局受話器を握ったまま10分くらい固まって終わった。


「仙道さん」とユニフォームを引っ張るのは、彦一。

「んー?」

「見かけへん制服やと思いません?」

そう言われてギャラリーを見上げて思わずそばに寄る。

!?」

「やほー、頑張ってねー」

とヒラヒラ手を振るのは間違いなく

「何でわざわざ制服…?」

そう聞くと

「陵南が私服で学校内に入れるか分かんなかったから」

と笑う。

「これ、目立ってるから恥ずかしいけどね」

と一言添えられて。

「ごめん、俺言わなかったな」

あの時は、試合の応援に来てほしいというのしか頭になくて。

「いいよ。ほら、仙道は早くチームに戻りなよ」

に言われて振り返ると『早く戻ってこい』というオーラがチームから漂ってきた。

「じゃ、またあとで」

軽く手を上げて言うとも「ん」と笑顔で軽く手を挙げる。


試合はおかげさまというか、何と言うか。

快勝に終わってとりあえず着替え終わって体育館に戻ってみると、あの珍しい制服が見当たらない。

え、まさか。帰った!?

慌てて体育館を飛び出して正門の方へと走る。

正門にたどり着いても、の姿はなく、その場で空を仰いだ。

何てこった...


「あれ、もう片付けが終わったの?」

振り返ると、珍しい制服を着た

あ、あれ?

「もしかして、帰ったと思った?」

俺の顔を覗き込むように聞いてくる。

「ま、まあ…」

「わたし、そんなに薄情じゃないって。片付けまだなら戻りなよ。中庭辺りうろうろしてるから。花壇があったし、退屈しそうにないよ」

そう言っては笑う。

「じゃあ、俺戻るけど。知らない人に着いていったらダメだからな!いい?」

俺の言葉に

「はーい、仙道先生!」

と右手を挙げて笑いながら返事する。

「よろしい」と頷き、「すぐ戻るから」と言って体育館に戻った。


片付けとミーティングを済ませて中庭に向かうと、の姿がある。



「あ、お疲れー。もう帰れるの?」

「うん。何か食べて帰ろう。腹減った。奢るよ」

「ハンバーガー?」

は笑いながらそう聞く。

「いーや。今回は奮発してファミレス」

「おお〜!」

と拍手をしながらも乗ってくれた。

中学のときもこんなノリだったと懐かしい。

あの同窓会の帰りのときのようにの手を握って歩き出す。


暫くのんびり歩いて近場のファミレスに入る。

クーラーが効いてて中々気持ちがいい。

「そういえば、は今日はどうするの?」

「後は帰るだけ」

「泊まってく?」

別に深い意味があるわけじゃなく、寧ろからかう気持ちで聞いてみると

「え、仙道って一人暮らし?寮じゃないんだ?」

「そ。気ままな一人暮し」

「部屋ん中汚そー」

が笑う。

ああ、何だ。凄くあっさりと話題を変えられてしまってるよ、俺。

は意外にも強敵らしい。

さっきからあの掌に書いた言葉への返事というか反応を待っているというのにその話題に触れることすら出来ず、俺は目の前のハンバーグを口に運んでいる。

はプリンアラモードなんて可愛らしいものを嬉しそうに頬張っていた。

ま、いっか。

暫くファミレスに滞在してが時計を気にし始めたから店を出た。


並んで駅に歩く。もう辺りが薄暗くて、ちょっと引き止めすぎたかなと思った。

駅のホームで電車を待っていると音楽が流れる。

が乗る予定の電車がホームに入ってくるようだ。

「じゃあ、な」

俺が言うと、は鞄をごそごそとしながら

「仙道、手」

と言う。

何だろう?

右手を出すとそれを脇で締めて逃げられなくする。

え、何?どうでも良いけど、当たってるよ?

は鞄から棒を取り出した。棒、ではなくペン。

「え、何??」

は口でキャップを開けて俺の手に何かを書き始める。

「ちょ、たんま。くすぐったい。胸、当たってる。これはいいことだけど」

「暴れるな〜」

キャップを咥えたまま器用にはそう言いながら俺の手に何かを書いてそして開放されたときには電車がホームに入ってきて、ドアが開く。

「じゃ、またね!」

はそう言いながら電車の中に駆けていく。

電車の中に入ったはドアのところからペンを振る。それは、油性ペン。

え、油性?!

電車のドアが閉まり、俺は呆然とを見送った。は、とても楽しそうに嬉しそうに笑ってペンを振っている。


電車が見えなくなって俺は右手を見た。

少し太めの油性ペンで

は仙道あきらのことが好きだったんだよ、ビックリした?』

と書いてあり、続けて

『返事は冬の選抜で東京に帰ってきたときに聞くね』

とある。

俺の名前を漢字で書けていない事にちょっと笑えたけど。

これはもう、どうしていいか...

つまりは、冬の選抜出場を決めないといけないってコトなんだろうな。

結構険しい道のりを思い浮かべて知らず知らずに溜息が漏れる。

というか、何の返事が欲しいんだろう?


今度時間が取れたら東京に帰ってそこ意図だけは聞いておこう。

はぁ、ともう1回漏れた溜息が少しだけ可笑しかった。







桜風
07.11.11


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