心地よい距離





ガラガラとドアが開き、皆がそれに注目する。

「や、どうも。遅れました」

のっそりと長身の男子が気だるそうに教室の中に入ってきた。

司会者にぺこりと頭を下げて教室をさらりと見渡して席を選んだ。さっきまで同じ教室で授業を受けていたの隣だ。

「あんたが部長会に来るって珍しいじゃない、仙道」

仙道の隣に座っているがこっそり声をかけてきた。

「ん、まあ...ていうか、俺が部長なんだけど」

少し講義する口調で仙道が言う。

彼女は呆れたように溜息を吐き

「だったら、何でいつも越野がこういう席に出てんのよ」

と投げやりに言った。

理由なんて知っている。

だから、少しだけ厭味を込めて言ったつもりだった。

「ああ、俺こういうの向かないから」

この男に厭味は通じないのか!?ああ、さすが図太い神経だ。

そう思いながら仙道を軽く睨むとニコリと笑い返されて毒気が抜かれた気分だ。

は肩を竦めて司会者の言葉に耳を傾けた。



「てか。文化祭なのに、何で体育系の部長も出席なの?」

部長会が終了して廊下に出た途端仙道が隣を歩くに声をかけた。

「あ?」と面倒くさそうに声を上げてそのまま面倒くさそうな表情を浮かべて溜息を吐いた。

「おいおい、部長さん?」

「はいはい、何かな?」

ニコリと笑って仙道は返した。

「...越野に聞け。てか、本当に今日はどうしたの?」

「越野?ちょっと体調不良だって。部活も出られないって帰ったよ」

「ああ、部長さんが部長らしからぬ人物だから、真面目な越野が苦労を背負い込んじゃってガタが来ちゃったのねー」

「ははは、そんな感じ」

ほんっとうに...!

越野が心から気の毒だ。

ふと、仙道を見上げた。

首が痛くなるから普段は見上げない。面倒くさい。

でも、たまに見上げてしっかりとその顔を観察するとムカついてくる。ええ、ホントに。

「何?」

「越野が可哀想」

「俺は?いつも越野に怒られてるんだぜ?」

「アンタのは自業自得でしょ?」

軽く言うに「ちぇー」と呟いて少しだけ拗ねた。

「でっかい人間が拗ねても可愛くないよ」

笑いながらが言うと仙道は口を尖らせて不満そうな表情を浮かべた。

「ねえ。爪、どうしたの?」

仙道は背が高いからその顔を見上げるのは面倒くさくてしない。だけど、手はいつも目に入る。右手の中指の先に絆創膏を貼っている。

「んー。深爪。失敗したよ。昨日の夜に爪切ってたら、珍しく電話が掛かってきて慌てたらやっちゃった」

肩を竦ませて言う仙道に「もしかして、わたし?」とが見上げて聞く。

昨日、用事があって仙道に電話した。今日、学校で話しても良かったのだが、早く片付けたかったから珍しく電話にしたのだ。

「まあ、そういうことにしておこう。その方がが優しくしてくれそうだから」

「ムカつく!」

は本心からそう言った。

こんな風にはぐらかすように言われると何となく甘えてしまいたくなる。言外に許してくれているのがよく分かるから。

「気にしなくていいよ。当分試合もないし」

「試合があるとまずいの?」

「まあ、ね。シュート打ったりするのに色々と」

の顔が少し青ざめる。

今こんな風に何でもないことを言い合えている仙道彰はどうでもいいけど、バスケ部のキャプテンである仙道ってもの凄くこの学校にとって大切な存在らしい。

この学校にとって?んー、言いすぎかな?バスケ部にとって。

「ご、ごめんね。ホントに。仙道は仙道だけの体じゃないのに」

が言うと仙道は唖然としてやがて噴出す。

「俺、妊婦さんみたいだな。俺だけの体じゃないって言われると何か...」

「え?...あー、うん。お子さん、いつ生まれますの?」

「再来月です」

「あらあらもうすぐじゃない」

お互いノリがいい。

今年クラスが一緒になったからまだ1年も一緒に居るわけでもないのに何となく空気が読めるというか間合いが分かるというか。

「お前ら、何してんだ?」

ふと声が加わってきた。

振り返るとまたしても溜息を吐きたくなる。だから、背が高いよ...

「ああ、福田。どうしたの?」

「部長会終わったなら早く体育館に出て来い..って監督が」

呼びに来たのかな?

そう思って仙道を見上げると楽しそうに笑っている。

「ほほう、相変わらず愛されてるね仙道」

仙道がいつも監督に怒鳴られているというのは学校中で最も有名な事実かもしれない。

そう思いながら仙道を見ると、仙道は苦笑しながら「残念」と呟いた。

「んじゃ、また明日な」

そう言って仙道はの頭にポンと手を置いた。

心地よい重さには目を細める。

仙道は背が高い。

だから、のこんな表情を目にすることが出来ない。

とても安心して表情を緩められる。

「まあ、部活頑張って」

「おー」

が顔を上げてそういうと仙道はニッと笑ってそう応えた。

「福田も」とが言うと福田は軽く手を上げて応える。


彼らの背中を見送っては彼らが消えていった逆方向へと足を向ける。

文化祭の準備の話し合いをすることになっている。

まだその感触が残っている自分の頭に手を載せてみたら何だからまた頬が緩んだ。






20万打リクエストありがとうございました。





桜風
08.8.31


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