Miracle Valentine's Day





「こんばんは、」と花形さんちの玄関を開けると夕飯の片付けをしているおばさんが「いらっしゃい」と声を掛けてくれた。

「おじゃまします」と靴を脱いでわたしはいつものように階段を上がる。

ドアノブに手を掛けて

「いただきまーす!」

とドアを開けた。


ホットカーペットの上に座った透くんはそのままベッドに背を預けて方膝を立てて雑誌を読んでいたみたい。

わたしのドアを開ける際の言葉に突っ込みはなく、

「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたよ」

と苦笑しながら雑誌を閉じた。

キョロキョロと部屋の中を見渡す。

「そこ」と指差された先に紙袋がドドンと置いてあった。

「何でこんな隅っこに置いてるの?」

聞いてみると

「去年大騒ぎして怒ったのはどこの誰だよ」

と笑う。



透くんの部屋にホットカーペットが導入されたのは約1年前。年末だった。

おじさんが会社の忘年会の席のビンゴで当てたとかそうじゃないとかで。

置く場所と言えば透くんの部屋しかなく、仕舞っておくのは勿体無いとばかりにそれが透くんの部屋に備え付けれられた。

去年、そんな事をすっかり忘れていた透くんは、あろうことか学校の友達とかから貰ったチョコをその上に置いていた。

箱を開けてびっくり。

ドロドロのチョコがなんとも大量に出来上がっていた。

思わずそれについて注意をしたのは言うまでもない。だって、チョコレートに失礼だ!



そんなわけで、今回はホットカーペットからチョコを守るべく、ドア付近に安置していたというのが、透くんの主張らしい。

「貰って良い?」

はそのために来てるんだろう?」

少しばかり、透くんに気持ちを込めて贈った女の子たちに申し訳ないけど。

透くんはチョコレートをこんなに大量に食べるのは苦手だそうで。

だから、わたしが毎年手伝っているのだ。

「あれ?学校、態々このために行ったの?」

3年生は学校に行かなくても良いと聞いたことがある。

うちの学校も今はそうだから、きっと翔陽でもそうなんだろうと思ってた。

「まさか!バスケ。進路が決まってるからみんな暇でな。放課後狙って後輩たちとバスケをしてるんだよ」

透くんが笑いながらそういう。

透くんを含めて、彼の周りはバスケ馬鹿が揃っているらしい。

冬の大会まで出たのだから、本当にびっくりだ。本当なら受験生なのに。


透くんの持って帰った紙袋の中をテーブルの上に広げると有名チョコレート店のそれがあった。

「これ、貰ってもいいの?」

「...いいよ?」

透くんはそういうのに興味がないらしく、“チョコレート”は飽くまで“チョコレート”らしい。

わたしが喜んで食べているから透くんは気になったようで「ひとつ頂戴」と手を伸ばしてきた。

彼の手にひとつ乗せる。

チョコを口の中に入れて透くんは味わうようにゆっくりと溶かしていたようだけど、口の中に何もなくなって、眉をしかめた。

「よく分からないな」

「勿体無い!」

それひとつで板チョコ何枚買えるか!!

透くんの言葉にそう反応すると彼は笑う。

「そうだな。まあ、味の分かるが食べてくれるから良かったよ」

...褒められた?からかわれた??

よく分からないけど、けなされていないからいっか。

「でも、本当に悪いよね」

「何が?たぶん、今更だろう?」

わたしの言わんとしたことが分かったようで透くんは笑いながら言う。

「それに、そのチョコは捨てられるよりもの体重に変わった方が幸せだろう」

と続ける。

「な!?ちょっと酷いよ!!」

抗議をすればまた笑う。



透くんは徐にテーブルの上に広げたプレゼント各種に手を伸ばす。

その中のひとつを手に取った。

「...食べるの?」

聞いてみたら「ああ」と頷いてリボンを解く。

中から出た来たのはチョコレートクッキーが数枚。

透くんは別に甘いものが嫌いというわけじゃない。ただ、たくさん食べないだけ。

クッキーを1枚手にとって口に運ぶ。

半分くらいを口に入れた透くんの眉間に皺がよった。

「何か..しょっぱい」

「え!?わたし、間違えた!!??」

思わず口に出してそのままクッキーを1枚口に中に入れる。

甘い。ちゃんと甘い。

そうだよ、ちゃんと味見もしたじゃん。

透くんを見ると、物凄く楽しそうに笑っている。

そして、齧りかけの残りのクッキーを口の中に放った。

溜息を吐くと、透くんはクツクツと笑う。


「何で混ぜるんだ?」

透くんがもらったプレゼントの山の中にこっそりわたしが持ってきたそれを混ぜたことを聞かれた。

「...何となく」

だって、こんな凄いものを目の前にして渡せますか!?

「ま、次はちゃんと手渡ししてくれると助かるな。見つけ出すのに苦労する」

そう言って透くんは立ち上がった。

。コーヒーと紅茶と緑茶とほうじ茶とウーロン茶にオレンジジュース。どれがいい?」

丁度喉が渇いたと思っていたところだ。

「ココア!」

さっきからかわれたお返しにそう応えた。

けど、透くんはやはり余裕綽々で

「了解」

と一言返して部屋を出る。

どうやらこの家にはココアもあるらしい...








桜風
08.2.7
08.3.9(再掲)

ブラウザバックでお戻りください