| 校舎から出ると見事に真っ暗で、思わず吐いた溜息は白く、すぐに冬の冷えた空気に溶けていく。 寒さで耳が痛い。 ざわざわと人の気配がして振り返れば、うちの学校では知らない人は居ない、バスケ部がぞろぞろと揃っていた。 「お疲れ様」 声を掛けると、クラスメイトの牧くんが驚いた表情になる。 「なんだ、。まだ居たのか?」 数ヶ月前まで私は男子バスケ部のマネージャーをしていた。 ただ、受験というものが近づき、流石に私は部活を続けられなくなって皆よりもいち早く卒業させてもらった。 こう見えて、自分で言うのもなんだけど敏腕マネージャーだったのだ。 引退した最初の頃こそ、下級生のマネージャーに色々聞かれて「私がいないと王者海南もダメね」とか思っていたけど。 それもすぐになくなって、案外私が居なくても全く何の支障もなくうちは『常勝』なんだと思い知らされた。 これで、牧くんが突然抜けたら大打撃もいいところだったのだろうけど。 「先輩!」 「お疲れ、ノブくん」 いつも元気だったノブくんは相変わらず元気で、今まで部活をしていたのにまだ元気があるようだ。 「先輩は、何でこんな時間に?」 「ああ、ちょっと担任と話し込んでたの。あと、色んな先生に質問攻めをしに行ったりね」 私が答えるとノブくんは「大変っスねー」と他人事のように言う。 まあ、ノブくんにとっては確かに他人事なのだろう。 きっと2年後のノブくんは、私のように受験をしなくて済むのだろうから。 何せ彼は近い将来、常勝海南バスケ部を背負って、牧くんから『神奈川No.1』を受け継ぐらしいからバスケの推薦とかもらえるだろうしな。 「先輩。ラーメン食って帰りませんか?」 誘ってもらえるのは嬉しいけど 「ゴメンね。ちょっと、無理かな。勉強しなきゃ」 手を合わせてそう言うとノブくんは「うへぇ...」と天を仰いだ。 ああ、そうだね。ノブくんは勉強嫌いだもんね。 「じゃあね」と言って正門へ向かうと、後ろから誰かが駆けて来る足音がした。 「送ろう」と言ってきたのは牧くん。 「牧くん、駅じゃないでしょ?」 「だから、送ろうって言ってるんだ。一人歩きは危ないだろう」 溜息交じりに言われてしまった。 「皆とラーメンは?」 「いつでも食える」 なるほど。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 そう言うと「おう」と返事をされた。 「牧くんは進路決まってるんだっけ?」 まっすぐ駅に向かいながら牧くんに聞いてみた。 牧くんは何処にでもいけるというのは聞いたけど、結局何処にしたのかまでは耳にしてない。 「ああ、このまま上がる」 「というコトは海南大か...」 「そういうことだな。は?」 「此処へ来て進路を変えたいと言って『大馬鹿者』の称号を欲しいままに手に入れました。そんな称号、欲しいとか思わなかったけど...」 さっきはその事で担任と話をしていたのだ。 流石の牧くんも目を丸くしていた。 わーい、牧くんを心から驚かしたぞー。 なんてのは私の現実逃避的な現在の心境。 「...大丈夫なのか?」 「でも、後悔はしたくないからさ」 「そうか」と呟いたっきり牧くんは何も言わなかった。他の友人たちには「思いなおせ」とか色々言われたのに。 「、今から塾とか...」 「今日は無い。というか、もうこの時間だしなー」 時計を見ながら言う。本当は塾があったけど、担任に進路相談したかったし。親には予め言ってるから、今日はお休みすることにした。たった今、そう決めた。 「じゃあ、少し気分転換の寄り道しよう」 そう言った牧くんは私の手を引いて、駅までまっすぐに向かっていた大通りから少し外れた。 「何処行くの?」 「まあ、いいからついて来いよ」 牧くんがそう言うなら、と思った自分に結構驚いた。 何だ、このとてつもない信頼感。 「牧くんって、凄いなー」 思わず呟くと「何か言ったか?」と振り返りながら聞かれて、慌てて首を振って何でもないと答える。 着いていった先は並木通り。 「うわぁ...」 思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。 並木全部にライトがつけられていて、さながら全てがクリスマスツリーだ。 「1年のときも、2年のときも。この時期はもの凄く忙しかっただろう?どうせ知らないと思ってな」 全然知らなかった。 「何で牧くんは知ってるの?」 「1年のとき、今の時期に偶々向こうを通って此処が見えたんだ」 牧くんは少し離れた小高い住宅地を指差してそう言った。 「に見せたいと思ったんだけど、さっきも言ったように忙しかっただろう?だから」 どうだ?と目が聞いている。 「ありがとう、牧くん。いいクリスマスイブになったわ」 お礼を言うと満足そうに牧くんは微笑み、 「じゃあ、来年もまた一緒に来よう」 などと言う。 空耳だろうか、寧ろ幻聴だろう? そんなことをグルグル考えていたら彼はそれがウソじゃないと教えてくれる。 「だから、勉強頑張れよ」 「...精進努力します」 牧くんは「ははっ」と笑いながら大きな手で私の頭をクシャッと撫でた。 |
桜風
07.12.20
08.1.14再掲
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