01.ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間




「落としましたよ。えっと、..さん?」

駅の中を歩いているとそう声を掛けられた。振り返ると男の子が立って何かを差し出している。年のころは私と同じか、..年下か?

何はともあれ彼が差し出しているものを受け取る。

て、定期券落としたんだ、私。しかも6ヶ月定期。あと4ヶ月残ってたのよ。

「ありがとうございます!!危うく泣きを見るところでした。」

定期を握りしめてお礼を言うと

「いえ。」

と一言素っ気なく答えて彼は人ごみに消えていった。

お礼がしたかったのに...



あの駅はいつも利用するから注意してあの彼を探してみるけど、やっぱり見つからない。

彼は偶然あの日に利用しただけなのかもしれない。


それから定期を更新する頃になってもやっぱりあの男の子には会えなくて...



そんなある日突然友達に

。ボクシング見に行くよ!!」

「...はあ?今、『ボクシング』って言った?」

「そう、ボクシング!熱いよ〜!!」

...いや、熱いのは今のアナタ。

「何でいきなりボクシングなの?」

「可愛い男の子がいるのよ!行くよね、。...皆興味無いって言うんだよ。もうしかいないの。ね!お願い!!」

「はいはい。」

向学のために行ってみましょう。


会場に着くと人が溢れていた。...何やら大きな試合らしい。

指定してある席に着き、試合が始まるのを待つ。

そして、入場してきたボクサーを見て驚く。

あのときの彼はこんなところにいた...

試合の方は何だか良くわかんなくて、でも、宮田くんはとっても凄くて。...そして、かっこいいと思った。


こんなところで彼の名前、宮田一郎と言うのが分かって所属ジムっていうのも分かったからお礼をしようと思えば出来たんだけど、でも、中々行動に出られない。

何より随分前のことだし、宮田くんが覚えているとも限らない。いや、十中八九覚えてない。



そう色々考えて躊躇っている日々を送っていた。



「落としましたよ。」

再びあの駅で声を掛けられる。そしてその声はあの時と同じ。

慌てて鞄の中とか色々落としていそうなものを探す。

定期はあるし、ハンカチもある。家の鍵だって、この中に...

私、何落としたんだろう...?

振り返ると彼がいて、

「冗談です。」

と笑いながら言った。

「...宮田くん!じゃないや、『さん』!」

ちょっぴり睨みながら言うと

「何で俺の名前を知ってるんですか?」

驚いたように彼が言う。

「えっと、この間あったナントカって試合、見に行ったんです。宮田さん、ナントカっていうチャンピオンになったんですよね。」

「『OPBF』。...俺の試合、見に来たんですか?」

「はい。友達が可愛い男の子がいるから行こうって。」

あ、...正直に言い過ぎたかな?

「可愛い、ですか?でも、えーと、さんでしたよね。俺と歳はあまり変わらないでしょ?俺、今年で21ですよ。」

「うわ、同じですね。あ、そうだ。私ずっと宮田さんに会いたかったんですよ。随分前のことになっちゃいますけど、定期を拾ってくれたじゃないですか。そのお礼がしたくて。」

ずっと気になっていたことを言うと、宮田くんは苦笑をしながら

「別にいいですよ、偶然拾っただけなんですから。あ、それと、『さん』はやめてください。同じ年らしいんですから。」

そんなことを言う。まるでまた会えるみたいな、そんなことを。

さんは良くこの駅使うんですか?」

「まあ。この近くの学校に通っていますから。...宮田くん、は?」

「時々、ですね。じゃあ、もしかしたら、また会うかもしれませんね。...それじゃあ、また。さん。」

そう言っていつかのように人ごみに消えていった。


でも、あの時と違うのは、私は宮田くんの名前を知っていて、また会えるかもしれなくて...

そして、私は宮田くんが気になっている。




ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間。

でも今は...必然だったんじゃないかって思いたい。



他人の名前なんて覚えてなさそうなんですけどね、覚えてました。
一種のナンパのような気がしますね(笑)
ニセモノ一郎、再びって感じですね☆


桜風
05.1.10


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