1 待ち合わせはツリーの下で





「ねえ、達海聞いてるの?!」

受話器の向こうに向かってが言う。

『んー、めんどい』

「ちょっ!酷いでしょ、何よ!!」

『だってー、クリスマスに街中、しかもツリーの下?絶対に人が多い。やだ、めんどい』

確かに、達海の言うとおりのはずだ。

達海が口にしたそれは毎年の光景だ。

どうやったらこんなに人が集まるのか。そうか、クリスマスツリーは誘蛾灯のようなものだ。

そんなことを思ってなくもない。

では、ツリーの下で待ち合わせをしたいと言っている自分も誘われた虫と同じ...

そこまで考えて自分のロマンの無さにちょっと傷ついた。

『じゃ、そういうことで』

「ちょっ、達海!?」

本当に電話が切られた。

耳につけていた携帯電話を視線の先に置き「もう!」と拗ねてそれをベッドに投げた。

達海の性格ならそういうと思っていた。

間違いない。

言われたときも「やっぱりね」という気持ちがなかったこともない。

だが、予想していたがそれとこれとは別で。

クリスマスの夜は、その瞬間別世界のような気がするのだ。別にクリスチャンでも何でもないが、特別な夜になる。

それは街全体が作り出す空間で、1年に1度しかないから余計にそう思えるのだろう。

いつもやる気を見せない、一緒に歩いていても楽しんでるのかどうかわかんない達海は、本当に楽しいのだろうか。

聞けばきっと彼は彼なりに意義を見出して楽しむと思う。

というか、彼は意味がないことはあまりしたがらない印象だ。

つまり、人の出が最も多いクリスマスイブに、しかも人が沢山集まるであろうクリスマスツリーの下になんて行くはずがないのだ。

「ちぇっ」と呟き、は自分が投げた携帯をじっと見た。

「けち」

一言呟き、仕方ないので諦めることにした。


そういえば、話の途中だった。

電話を切られて、こちらから譲歩案を出すのはちょっと癪だったのでそのまま放置していたのだが、それにが気付いたのはまさにクリスマスイブだった。

達海に電話してみたものの電話に出ない。

携帯は持っていても失くすので持たない主義らしいが、一応無理やり持たせた。

たまに、奇跡的に繋がるのだが、本当に繋がることが『奇跡』なので、大抵彼が生活しているクラブハウスの事務所に電話をして取り次いでもらっている。

さすがに、いい加減それは辞めたいのだが、それ以外の連絡方法がないのだから仕方ない。

今回も事務所に電話をしてみるとフロントスタッフが出てきた。

達海に代わってもらうようにお願いすると、彼は外出していると言う。

「そうですか、ありがとうございます」

仕方ない、シングルベルと行くか。

せっかくだから、とクリスマスツリーを見に行くと見慣れた人物が肩を竦めて寒そうに佇んでいる。

は思わず駆け出した。

「何でいるの...」

呆然と呟くに達海は盛大な溜息を吐いた。

「だって、が言ったんだろう。ツリーの下でって」

呆れた口調の達海は「時間も言わずに」と付け加える。

「あ、ごめん...けど、じゃあなんで...」

「さあねー」

空を見上げながら達海が言う。

そして、無言で差し出された手。

は戸惑い、けれどこれが正解だと信じてその手をとる。

「わっ」と思わず声が漏れるくらいに冷たい。

「達海、いつから此処に居たの?」

「ツリーの飾りが点灯される前から」

言うまでもなく、冬の日暮れは早い。

「ちょ、風邪引くでしょ?!」

慌てては自分の巻いているマフラーを脱いで達海の首にグルグルと巻く。

「あったかいなー」

ズビ、と鼻をすすって達海が言う。

「体調管理もちゃんとしなきゃ。監督でしょ?!」

「わー、口うるさーい」

適当に言う達海になおも言い募ろうとしては思い直す。

まだ言っていない言葉があった。

「達海」

「んー?」

「ありがとう」

少しだけをじっと見ていた達海は苦笑して

「Merry Christmas」

という。

は笑って

「クリスマスおめでとう」

と日本語で返した。









桜風
11.12.1