| ふと空を見上げるとはらはらと雪が舞ってきた。 道理で寒いと思った。 先ほどから吐く息が白く、耳が痛い。 そういえば、とふと思い出す。 最近、魔界に行っていない。 こちらが忙しかったので、ずっと足を運んでいない。 魔界と人間界が以前に比べて気軽に行き来することが出来るようになったお陰で蔵馬は何度も魔界に足を運んでいる。 人間界と魔界では相容れない部分があり、その部分はやはり多少の問題になっているが、それぞれの世界で調整役となっているものたちが居るのでそれなりに機能している。 魔界はエリアによって気候が同じであるため、雪を知らないものも居る。 植物を知らなかったり、光を知らない者も居るのではないだろうか。 だから、魔界はいつも変わらない。 その例外として妖怪同士の大きな喧嘩などでクレーターが出来たり、丘が崩れて低くなったりとそういうことで多少風景が変わることはある。 基本的に魔界の風景が変わるときは『破壊』という形で変わるのだが、極稀にそうではない変わり方がある。 蔵馬が向かった先にあるのは、その極稀な例だ。 そこには、枯れない桜がある。 数年前、浦飯幽助の発案で魔界トーナメントが開催された。 それに優勝した者が魔界の大統領になって、4年間だけ魔界を統べることを許されるというルールの大会だった。 蔵馬も当然参加した。 その戦いの中で、彼は対戦相手の時雨の攻撃を止めるために、桜を成長させた。 その成長した桜はそのまま花を咲かせたままずっとこの地に根付いている。 はらはらと花びらが散ることはあるが、花が枯れた様子を見たことがないとこちらの知り合いに聞いたことがある。 桜の元へ向かうとぽつんと人影があった。 「?」 名を呼ばれた彼女は振り返った。 「何だ、久しぶりじゃないか」 彼女は大盗賊妖狐蔵馬を知っている。昔はよく殺しあった仲だ。 こうしてお互い生きていると言うことが示すように、決着は付かなかった。 そして、彼女と久々の再会を果たしたのはあの魔界トーナメントだった。 結果、闘うことはなかったが、懐かしさを覚えた。 「そうですね、久しぶりです。元気でしたか?」 「気持ち悪いからそのしゃべり方を辞めろ」 彼女は愛想なくそう返した。 「が嫌がるからこうやって敬語で話をしているんですよ」 ふふふと笑って蔵馬が言った。 彼女は舌打ちをして、桜を見上げる。 「は、桜が気に入ったんですか?」 「まあまあ、な」 彼女が『まあまあ』と表現したその意味は『非常に』にあたる。 素直ではないのは相変わらずなのだ。 「さっき、雪が降ってきたからこれを思い出したんだ」 彼女のリクエスト通りに口調を昔の妖狐蔵馬の当時のような乱暴なものにしてこちらにやってきた理由を口にした。 「『雪』か?」 不思議そうに蔵馬の言葉を繰り返す彼女に彼は眉を上げる。 「まさか、は雪を知らないのか?」 「し、知ってる!馬鹿にするな!!」 もう馬鹿にした後だ、と思いながらも「はいはい」と適当に流す。 「で?」 が突然そう言う。 「『で?』とは?」 「その雪を見たら、何をするんだ?」 何をする... 「今の季節だと、クリスマス..か?」 「『クリスマス』とは何をするんだ?」 どうやら興味があるらしい。 「ご馳走を食べて、お酒を飲んで...」 何をすると聞かれても、宗教に詳しくないのでよくは知らない。 彼の住む日本でありがちなクリスマスを頭に浮かべながら単語を並べてみると、 「つまりは宴会か!」 と彼女は目を輝かせた。 そういえば、コイツはザルだったな... 「まあ、宴会と言えなくもない」 「で、この『サクラ』はその雪に似てるんだな?」 彼女が念を押す。 「まあ、そうだな...」 似てなくもない。 「よし、ここでそのクリスマスをするぞ!」 「はあ?!」 蔵馬が頓狂な声を上げるが、彼女は駆けて行った。 酒の調達と、昔と今の仲間を集めるつもりなのだろう。 はらはらと落ちてきたほんのり紅色をした花びらを手で受け止めた。 雪ならこれで溶けるが、桜の花びらは溶けない。 「まあ、花見も似たようなもんか」 ご馳走を食べて酒を飲んで... 日本に帰ったら随分と季節を先取りしたことになりそうだが、楽しそうなので参加することにした。 勿論、彼女に誘われた様子はないが、輪の中に居ても悪くはないだろう。 はらりはらりっと降ってくる桜の花びらの中、蔵馬は小さく笑った。 |
桜風
11.12.1