3 お揃いリング





書物を目の前に、イザークは唸っていた。

目の前の書物は「クリスマスキャロル」と書いてある。

「よし、」と小さく気合を入れてイザークはその本のページを開いた。


先日、と出かけたときに不意に以前読んだ本の内容を思い出し、彼女に話したのだ。

すると彼女が目を輝かせて「それ、私もやりたい!」と言った。

「やりたい?」

「だって、楽しそうじゃない!!」

もうちょっと抵抗してみようと思ったイザークだが彼女が物凄く期待した瞳を自分に向けているので、それは諦めざるを得なかった。

これが、世間でいうところの『惚れた弱み』なのだろうな、と一方で冷静に分析する自分が居た。


物凄くざっくりした内容の本を読んだだけなのでまずは『クリスマス』とは何をする日なのかを調べることにした。

自分が見たのは『恋人達の日』という内容のものだったが、調べるとどうやら宗教的な行事らしいという記載も出てくる。

に話したのは『恋人達の日』の方なので、そっちを採用するつもりでいるが...

民俗学というよりも、歴史学だななどと思いつつも文献を紐解き、何となくわかった。

少し変遷しているが、今でもプラントにあるあの行事のようなものだ。

そう当りをつけた。

そうなると、彼女が期待しているようなことはない。

毎年同じように過ごしているその日を迎えるだけになる。

ほっと息を吐いたイザークは、これからその日を迎えるための準備をしようと考えたが、彼女ががっかりする様子が瞼に浮かび、再び文献を手に取る。

似たようなものになるのは構わない。

それでも、彼女が楽しみにしているのだから少しくらい、当時の『クリスマス』を再現してみたいと考えたのだ。



「機嫌良いな」

声をかけられては振り返った。

「なんだ、ディアッカか」

「『なんだ』ってご挨拶だな。それより、なんかいいことがあったのかよ」

どうせ、イザークがらみだろうけど。

そんなことを思いながらディアッカが問うと、少しだけ勿体つけてが先日のイザークとの約束を口にする。

しかし、目の前のディアッカは不思議そうに「けど、それってアレだろう?」と現在でもプラントでにある行事を口にした。

「へ?」

微かに首を傾げてが声を漏らした。

「だから、今でもプラントにあるんだって」

「えー!」とが声を上げた。

「なんだよ」

「酷いよ、ディアッカ!」

「オレ、酷くないだろう?!」

反論するディアッカを無視しては回れ右をした。

ディアッカは酷い、と心の中で呟き、歩き出す。


『どうした、

夜になってイザークに通信を送る。コールをしているとすぐに繋がった。

「今日、ディアッカから聞いたの」

そう言ってはディアッカから聞いた話をした。

イザークは少し機嫌悪くなったが、それは勿論に対してではなく、ディアッカに対してだ。

『いや、やるぞ。クリスマス』

イザークが言うとは覗うように見てきた。

『こう見えて、今、リサーチ中だ』

彼にしては珍しく少しおどけてそう言う。

『大いに期待してくれとまでは言えないが、楽しみにしていてくれ』

そういったイザークにはそれ以上何も言わず笑顔で頷いた。


イザークがなにやら頑張ってくれるのだから、とも少し頑張ることにした。

しかし、頑張るといっても何をしたらいいのかイマイチわからない。

確か、イザークから聞いた話ではその『クリスマス』ではプレゼントを贈りあうらしい。

それを思い出して、は街へと出た。

キラキラ輝く街の中でふと目に入ったのは骨董店。少し重いドアを開くと店内は別世界のようだった。

ゆっくりと店内を見て回る。

イザークは民俗学に興味があり、それ故に骨董品にも興味があるのだ。

何か、素敵なものがないかな、と思った。

目に留まったのは木彫りのペアリング。珍しい。

店主に聞いてみると、指に嵌めるよりもペンダントトップのような形で使用した方が良いだろうといわれた。

その見せにあった『組紐』の書籍とそれの材料も購入した。思わぬところでプレゼントを購入することが出来た。

これから当日まで時間は短いが、組紐を編んでそれをチェーンや革紐代わりにしてもらえればオリジナルのプレゼントになる。

出来れば、色違いで2本編みたい。

寝る間を惜しんで何とか2本編み、そして、当日を迎える。


いつもと少しだけ違ったいつもの行事に、は心からイザークに感謝し、そしてのプレゼントにイザークは驚く。

「このお揃いのリングは初めてのクリスマスの記念だね」

が言うと

「ああ、との忘れられない思い出がまた一つ増えたな」

とイザークも甚く気に入ったようだった。









桜風
11.12.1