4 あまいあまーいケーキ





クリスマスソングが流れ始めると彼はそわそわし始める。

店頭では「クリスマスケーキご予約承り中」とポップな文字が躍っているチラシが置いてあったり、目の保養と言うべきか、その全てを食べることが無理だから別の意味ではストレスとなっているのかそこらへんはイマイチわからない。

わからないが、目を輝かせている彼に苦笑してしまう。

「龍ちゃん」

「む...」

名を呼ぶと彼が振り返る。

見た目に反して甘いものに目がない彼はこの時期と、バレンタインは大変だ。

バレンタインは良い。

彼は貰う側で、しかも結構もらえるのだ。

嬉しそうにしながらチョコレートのパッケージを開けている姿は平和そのもの。

クリスマスは、ケーキ。

これもまた幸せそうな顔をする。

「龍ちゃんはさ、わたしと居るってことよりも、ケーキが目の前にあることのほうが嬉しいんだよね」

思わず意地悪なことを言うと

「そんなことはない」

とぴしゃりと言い切った。

いやはや、わたしもズルイ。

これが聞きたくてさっきの言葉なのだから。

「うん、ごめんね」

「勿論、ケーキも嬉しいが」と余計な一言。

けど、怒る気になれないのは、彼は自分の失言にすぐに気付いて慌てるから。

今も目の前で「いや、違うんだ」とか「と一緒にいられることが嬉しい」とか言うものだから可笑しくなる。

「む...どうして笑う?」

「ううん、龍ちゃんは..面白いね」

「そんなことを言うのはくらいだ。他のやつにはそんなことを言われたことがない」

「あら、みんな龍ちゃんのことをわかってないのね」

そう言うと「む...」と少しだけ仏頂面をした後、照れたようにほんのり笑った。


「ところで」

隣を歩く彼を見上げる。

「何だ?」

「決まった?」

先ほどからモールの中をグルグル歩いている。

お茶をしようって話をしたのに、隣を歩く彼が本気でケーキを物色しているのだ。

これでモール3週目である。

「む...」

「よし、わかった」

わたしが言うと彼が不思議そうに見下ろしてきた。

「気に入ったのを買って帰って、家でお茶しよう。色んなお店のケーキを食べ比べちゃおう」

「いいな、それ」

幸せそうに微笑む彼にわたしも思わず笑みがこぼれる。

「ついでに、クリスマスケーキのカタログも全部持って帰っちゃおう」

「ああ、そうしよう」

繋いだ手をギュッとして彼が言う。

本当にわかりやすい。

「ね、龍ちゃん」

「何だ?」

「今年はどんなケーキを買おうか」

「カタログを見て決めたいが..甘いのが良いな」

「そうだね、うんと甘いのがいいね」

「ああ」

今年のクリスマスも去年と同じく、あまーいケーキを食べることになりそうだ。

そして、きっと来年も。









桜風
11.12.1