01. 恋愛感染メール






クラブハウスに着くと、何人かが廊下の一角に固まっていた。

「はよっス」

赤崎が声を掛けると「おー」とか「ちわっす」とかそれぞれがその声に応える。

「どうしたんスか?」

一番近くにいた丹波に聞くと

が、な」

と困ったように彼女を見た。

「はよっス」とに改めて声を掛けるとちょっと困ったような表情をしていた彼女は「おはよう」と笑顔を向けてきた。

「どうしたんスか?」

「んー、ちょっとね」

言いにくそうだ。

「なー、。外のアレ、何?」

「あ、今探してるんでちょっと待ってください!」

「外の、アレ?」

赤崎が首を傾げる。

「ね、赤崎くん」

「ウス」

「猫、いらない?ちっちゃくて可愛い子猫」

赤崎は今年から寮を出たと聞いている。

だったら、ペットOKのマンションとか...

「あー、ダメ。。独身に動物飼わせちゃダメ」

丹波にそういわれた。

自分のこともしっかりしなきゃいけないのに、それ以外の命を預かるなんてさせないほうが良いと言いたいのだろう。

「あ、そか。すみません」と小さくなるを見て何とかしてあげたいとは思った。

思ったが、赤崎自身特に動物好きではないし、面倒を見るのはちょっと面倒くさい。

「実家も無理っスけど、知り合いに当たってみますよ。俺、地元だし」

赤崎の言葉に彼女は「ありがとう」と笑顔で礼を口にした。

「あとで、写真を送るね」

「あ、自分で撮ります」

そういった赤崎は彼女に拾ってきた子猫の置いてある場所までに案内してもらった。

「あ、1匹なんスね」

「うん。この子だけだったから余計に気になっちゃって...」

「ふーん」と相槌を打ちながら赤崎は携帯で写真を撮り、「知り合いにメールしておきます」と一言声を掛けてロッカールームに向かった。

連絡のつく友人達にメールを送って、練習に臨んだ。


練習が終わって携帯を確認すると、メールを送って5分と経たずに返信があったことに気付いて苦笑する。

返信してきた友人は確か、以前も猫を飼っていたと記憶している。

に話をすると彼女は喜び、その日のうちに彼女が拾ってきた子猫は新しい飼い主の元へと引き取られていった。



数日後、子猫を引き取った友人からメールが届いた。

子猫の名前と近況が書いてあり、写真も添付されている。

を探して見せようかとも思ったが、此処最近フロントは忙しそうなので掴まらない可能性があると思った赤崎はメールを送ることにした。

廊下を歩きながらメールを送信すると、すぐ近くで音が聞こえた。

このタイミングだともしかしたらが居るのかもしれない。

赤崎は音が聞こえたその部屋に向かってみた。

おそらく此処だと当たりを付けてそっと部屋の中を覗き見ると、彼女は愛しみを湛えた笑顔を浮かべて大切そうに携帯を胸に抱えた。

「うわ...」

ずるずるとその場に崩れ落ち、赤崎は自分の頭を抱える。

あの表情は、ずるいだろう。

間を置くことなく、ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯がメールの受信を知らせる音を鳴らした。

サイレントにしていなかったことに気が付いた赤崎はあわててその場から逃げ出した。

何か音が聞こえたな、と思ってが部屋の外を覗き込んだが誰の姿もない。

首を傾げたは気のせいだったのだろうと納得し、仕事に戻る。


駐車場までダッシュで逃げた赤崎は、車に乗り込んで受信したメールを確認した。

予想通りからのそれは「ありがとう」と一言あっただけだった。顔文字や絵文字は使われていない。

しかし、先ほどの彼女の表情を見ればそれだけで充分だ。

気を抜くとにやけてしまいそうなので表情筋に力を入れて無駄に凛々しい表情を作った赤崎は、エンジンを掛けて車を走らせ、自宅へと向かった。









桜風
11.11.1