03. 優しく積もる淡い恋





外を見ると雪が降っていた。

ああ。と言うことは今日はお客さんは少ないな...


轟音の雨は意味もなく可笑しくなってしまうからそれはそれで楽しい。

けど、静かに降る雪は何だか寂しくなる。

いや、違う。たぶん、雪を見ると寂しくなるのは思い出のせいだ。



あたしがこのコンビニでバイトを始めたのは一昨年の8月。推薦で早々に大学が決まっらからバイトを始めた。

大学に入るまでに車の免許も取りたかったし、大学生として恥ずかしくない、相応の大人っぽい服だって買いたかった。

そうなるとやっぱり必要なのは先立つもの。

と、言うわけで始めたのはコンビニのバイト。まあ、最初のバイトはベタな感じのものがよかったから。

制服の可愛いファミレスと悩んだけど、ファミレスでバイトをしている友達に聞くと接客はちょっと大変だとか。なら、スキルを上げてから挑戦しようと思って学校帰りに通いやすいコンビニを選んだ。

そこにはあたしと同じ年の人がバイトにいた。彼は結構古株だとか。

しかし、中々の強敵だった。愛想がないのだ。

かといって、冷たい人かと言えばそうでもない。

重い荷物を持っていたら「貸して」と手を差し伸べてくれるし、お客さんの多さにパニクったら「何やってんだよ」と言いながら捌いてくれた。

結局、面倒見が良いのだ。つまりは、良い人。



その彼はその年の12月にバイトをやめたと聞いた。

進学の話とか全然していなかったからどうしたのだろうと思っていた。

そんな彼と再会したのは翌年の3月。

シーズン最後の雪の日だった。

その日もバイトでこの店に向かった。

学校帰りに便利だから選んだのだが、家からはちょっと不便だなーって思い始めていたときだった。

「あれ?」

裏口から店に入ろうとしたら店から出てきた彼に遭った。

「ああ、さん」

「ひさしぶり。どうしたの、宮田くん」

またバイト再開なのかなと期待していたら「店長には長い間世話になったから挨拶」と言う。

「俺、ちょっと海外で生活することにしたから」と言う。

ああ、留学なんだ。だから、進学の話が出ていなかったんだ...

「そっか。寂しくなるね」

しんしんと降る雪。

彼は苦笑して「じゃあ」と言ってそのまま店を後にした。

どうしたんだろう。どうしたんだろう...寒い、のかな?なんか、ちょっと...

彼の背中を見送りながらあたしは何だか不思議な感覚に襲われていた。

その正体が何か。それに気づいたのはそれからちょっと経ってから。

雪みたいに音もなく静かにゆっくり降り積もったそれが何か。やっと気が付いておかしくなった。

何てあたしは鈍いのだろう...

静かに降り続けたそれはあたしの心を白く染めていく。



自動ドアが開いたことを知らせる音が鳴る。

「いらっしゃいませー!」

マニュアルどおりに声をかけて振り返る。

彼は温かい飲み物からお茶を2本取り出してレジに置いた。

「久しぶり、さん」

「...いらっしゃいませ」

思わず返した言葉。

彼は苦笑して「酷いな」という。

「あ、うん。ごめん。久しぶり、宮田くん」

そう言いながらレジを済ませる。

「何時上がり?」

「あと5分」

「だろうと思った」

そう言ってレジに1本お茶を置いて「店長は?」と言う。

「奥にいると思う」

「わかった。それあげる」

そう言って宮田くんは一度店を出て裏口に回る。

ビックリした。

さん」と裏口から入った宮田くんが声をかけてくる。

「なに?」

「ただいま」

ビックリして、でも、何だかその言葉が実感させてくれた。

「おかえり」

外を見ると雪は止んでいた。

けれども、あたしの心に降り積もるそれは消えることなく、まだまだ降り続けて最後には心をいっぱいにしてしまいそうだ。









桜風
10.11.1