04. 眩しすぎるのは太陽じゃなくて





『クラス会のお知らせ』

練習が終わってロッカールームで着替え終わった世良は、そう印刷されている葉書を手にしていた。

昨日、実家から寮に届いていた。

「お?クラス会かー。高校?」

不意に背後から声を掛けられて慌ててバッグの中に乱暴にそれを突っ込んだ。

振り返ると丹波だ。

「あ、そうっス!」

「行けるんなら行けばー?彼女できるかも知んないぜ」

からかうように石神が言う。

「べ..別にそんなの居なくて良いっス!!」

「そりゃ健全じゃないなー」と丹波が笑い、「そうだぞー」と石神も笑う。

「行かないのか?」と隣の堺が聞く。

「いや、悩み中っていうか...」

「でも、アレだな。同窓会って言えば当時好きだった子とか来てて。清純なイメージを持ってた子が半端なくケバくなっているという刺激的な経験が出来るかもな。俺、軽くトラウマ」

笑いながら丹波が言う。

また行きづらくなることを言う...

「けど、世良さんは高校を卒業して4年でしょ?それでそんなになるもんスか?」

「赤崎ー。女に夢を見てたらお前、いつか泣きを見るぞー」

「経験者の言葉は重いっスね」

そんな会話が背後で交わされている。

どうしよう...


結局、『出席』に丸をして葉書を投函した。

悩んでいたのは、数人いる幹事の中に『』の名前があったから。

行きたいけど、行きたくない...

実行委員ならきっと出席なのだろう。

先ほどロッカールームで笑いながら丹波が言ったあの言葉がそのまま自分に当てはまっていた。

当時好きだった子。彼女が来るのは嬉しいし、久しぶりに会ってみたい気もしていた。

けど、彼女が変わってたら...?

思い出の中の彼女とのギャップに耐えられるだろうか...

期待よりも不安の方が大きいのだ。



クラス会当日、世良は友人と待ち合わせることなく独りでその会場に向かった。

当時の友人から連絡があったが、出来ればギリギリに行きたいと思っていたので適当な理由をつけてひとりで向かうことにしたのだ。

会場の前で深呼吸をしていると肩をポンと叩かれて「わあ!」と声を上げる。

振り返ると自分の肩を叩いた人物、が目を丸くして固まっている。

「わ、悪い」

「ううん、こっちこそ。ごめん」

謝りあってお互い苦笑。

「ひさしぶり、世良くん」

「久しぶり。今回、が幹事とかって、何か、ちょっと意外だった」

世良の言葉には苦笑した。

「自分でもそう思う」

高校時代の彼女はどこか一歩引いた性格だった。控えめ、という表現がぴったりの子だ。

でも、目の前に居るの印象は少し違う。

化粧や髪型、服装のせいもあるかもしれないが、そういった控えめな感じよりも快活な印象を受ける。

それなりに、ショックだ。「入ろうよ」と言われて「ああ、うん」と返してドアを開けた。


クラス会では世良は人気者だった。

何せ、現役プロサッカー選手だ。

そこまで仲良くなかった元クラスメイトがさも特別な友人であったかのように声を掛けてきてサインを求める。

面倒だなーと思いつつも、まあ、これも仕方のないことだと思って応じていた。

偶に部屋の中を見渡す。

は幹事だから忙しく動いている。

でも、目が合えばニコリと彼女は微笑む。その笑顔は高校時代、自分が憧れていたときのそれと変わらない。

2時間の宴会が終わり、希望者は二次会へとなだれ込む。

「世良は?」と声を掛けられて「いや、俺は明日練習あるし」と断った。

「おお〜!」と皆の声が重なる。

殆どが大学生だ。だから、『次の日に仕事』という状況はない。

と、言っても就職活動がどうたらって言ってたし、忙しいはずなのだが...

その就職活動のストレス発散のための会だったのかもしれないな...

そう思いながら世良が駅に向かっていると「世良くん」と背後から声を掛けられた。

振り返るとだ。途端に緊張が走る。

は、二次会行かないのか?」

「カラオケは苦手。もう疲れちゃったし。世良くんは?」

「ああ、俺は明日練習だから。寮の門限もあるし」

「門限あるの?!社会人なのに...!!」

目を丸くして言うに苦笑する。

「まあ、団体行動の基本ってトコロなんじゃないかなー」

「けど、世良くん。真っ黒ね」

クスクスと笑いながらが言う。半そでからすらりと伸びている彼女の腕は白くて眩しい。

「あ?ああ、日焼け...基本的に外での活動だし。長袖着てたら暑いし、夏の長袖は好きじゃないし」

「世良くんって『夏』ってイメージだわ」

「高校のときも真っ黒だったもんなー。は、何か印象が変わった..かな?」

「良い意味?悪い意味??」

顔を覗きこむように言うに怯みながら「わかんねぇ」と返す。

「そっか」と苦笑しながらは世良を見て眩しそうに目を細めた。

「よかった。世良くん、変わってなくて」

「は?」

「だって、プロサッカー選手って物凄いこう..遠い人って感じじゃない?だから、クラス会とかも来てくれないんじゃないかなーって思ってたの」

「あー、ちょっと悩んだけど。逆に俺、皆と話が合わないだろうな、って」

ホントは別の理由で悩んだのだが、本人を前にしては言えない。

「そういや、って図書委員だったっけ?」

「ん?ああ、うん。何、突然」

「ちょっと、さっき思い出して...」

「何を?」と聞かれて世良は答えに悩む。先ほど、が見せた表情。何度も目にしたことがある。

「図書室から、よく外見てただろう。眩しそうにしながら。窓際って勉強に向いてないんじゃないかなーってよく思ってたから」

は目を丸くしてそして困ったように笑った。

「うん、眩しかったなー...けど、眩しかったのは太陽じゃないよ。あ、太陽も眩しかったけど」

世良が首を傾げる。太陽よりも眩しいものとかあったっけ?

不思議そうな表情を浮かべる世良にはクスリと笑った。本当に変わっていない世良にとても安心しながら。









桜風
10.10.1