05. 受け止めるよ 何度でも





空から女の子が降ってくる。

そんな漫画みたいな話は中々遭遇できない。

できない、というか非現実的で、それに遭遇したいと考えて過ごしている人が居れば、周囲のものがそれとなく、時にはズバッと言ってやるのが友情だとか愛情だとかに繋がると思う。


空から女の子が降ってくる。

それは、非現実的で遭遇してしまった人間はきっと..運が悪いのだろう。

「何だ、これは...」

イザーク・ジュールは腕の中の女の子を眺めて呆然と呟いた。



空、というか先ほど歩いていたところから死角になっていたので分からなかったが、少なくとも女の子が降って来たのを目撃したイザークは慌てて地面を蹴り、何とか彼女が自然に落下していくのを防いだ。

我ながら素晴らしい運動神経だと思うのと同時に、変なのを拾ってしまったという後悔の念が襲い掛かってくる。

さすがに捨てて帰れるはずもなく、さて、どうしようと考えていると自分の腕の中の女の子が目を覚ました。

「大丈夫か?」

一応聞いた。

だって、空..おそらくこのビルの何階かから偶然か意図的かは不明だが落ちたハズなのでそれなりに負傷しているかもしれない。

「あら?」

未だ、イザークに抱きとめられていた首を傾げた彼女はきょとんとしている。

「痛むところとかないか?」

具体的に症状を聞きなおすイザークに彼女は「どこも痛くないわ」と答えた。

ホッと息を吐き、彼女を降ろす。

「あまり立ち入ったことを聞くのも悪いと思うが、なんで空から降ってきたんだ?」

何だ、この質問。

イザークは自分の口にした言葉に対して非常に後悔した。

そして、彼女はきょとんとして笑う。

「あら、降って来た?」

「ああ」

そう頷いたイザークに「ご迷惑をおかけしました」と彼女は頭を下げる。

ここで「全くだ」と言うほど子供でないイザークは「いや」と曖昧に答える。

「ところで、命の恩人の名前を聞いても良いかしら?」

「あ、ああ。イザーク・ジュールだ」

です」

そのときは、が幾重にも礼を口にし、お礼をしたいのでイザークの連絡先を聞き出そうとしたが、それは結局叶わずその場で2人は別れた。



「昨日、空から女が降ってきた」

翌日、悪友にその話をすると「イザーク、疲れてるのか?」と心から心配された。

それはそうだろう。

自分が彼の立場でも目の前の彼がそうであるように可愛そうな目で見るだろう。

しかし、彼の行動に共感できても受け入れ難いことに違いなく、イザークはキッと彼を睨んだ。

が空から降ってきたと言うショッキングな事件以降、もう二度と同じような事は起きないだろうとイザークは高をくくっていた。

だが、空から女の子が降ってくるという極めてレアなケースに行き当たったことのあるイザークがそのまま平穏に過ごせるはずがなく、ある日またしても降ってくる女の子を受け止める羽目に陥った。

今回は空から降ってきたのではなく、階段から転げるように落ちてきた。

悲鳴が聞こえて思わず手を伸ばして受け止めると、知らない仲でもないだった。

「またお前か...」

呆れた口調でイザークが呟くと

「また貴方様ですかー」

がその嫌味が多少籠もっているイザークの言葉に不愉快さを露にした。

「もう落っこちるなよ」

「好きで落っこちてるんじゃないです」

そう返したはその数日後またしてもイザークに行き当たる。

雨の日で、今回は受け止め損ねたイザークが尻餅をついた。

「ごめんなさい!」

勢いよく謝るに毒気を抜かれて怒鳴る気力がなくなったイザークは「全く」と呆れた態度を見せるだけで終わった。

しかし、今回はさすがにイザークもの申し出を受けて、近所だという彼女の部屋で服を乾かせてもらうことにした。


案内されたのは本当に近くだったが、案外小ぢんまりしていた。

「あの、いつもごめんなさい」

が改めて深々と頭を下げる。

確かに、この頻度はもう『いつも』で良いような気がする。

しかし、彼女は悪気があったわけではないだろう。

今日のはともかく、最初と2回目はそのままだと自分が大怪我ではすまないはずなのだ。

元々人のいいイザークはここで諦めた。

「気にするな。だって好きでやってるんじゃないだろう?多少重いのも慣れたしな」

「あ、ありが..とう?」

最後はちょっと失礼なことをいわれた気がしたは素直に礼を口にするのに抵抗があったようだ。

しかし、この重さも心地よいとまで思ってしまっている自分にイザークは些か呆れつつに気付かれないよう、そっと溜息を吐いた。









桜風
11.11.1