| 数時間前、俺は少し空調がおかしいから見てくれと頼んだ。頼んだ相手は、本職はMSの整備士である・。 しかし、意外と時間が掛かっているようだ。 開け放されたドアをコンコンとノックするとが振り返った。 「少し休憩にしないか?」 「んー?」と呟いたは時計を見て「うわぁお」と呟く。 立ち上がって伸びをした。 頼んだのは俺だが、こんなに時間が掛かるややこしいことになるとは思わなかった。 「悪かったな、遅い時間から頼んで...」 そう言いながらに持ってきたコーヒーを渡す。 「ああ、うん。あたしも此処まで時間の掛かることとは思ってなかったから」 差し出したコーヒーを遠慮することなくは受け取った。 「何処がおかしいんだ?」 が覗き込んでいた回路を見る。 良く分からない... 「それが、何処が悪いのかさっぱり見当がつかないの」 肩を竦めてが言う。 「でも?」 「というか、悪いところが無いような気がする」 「はあ?」 思わず頓狂な声を上げた。 「だって、うん...こんな空調MSに比べれば本当に単純なつくりなのよ?」 そう言いながらは腰に下げたドライバーやらレンチやらが入っている袋からドライバーを取り出して差し棒の代わりに使う。 「ここね。さっきのミゲルの話ならここが壊れてるなりするはずなの。全く壊れていない。だったら、その前のこれが壊れてるのかな、って思って開けてみたけど全然へんなところは無いの」 の整備士としての腕はザフトでも有名で、多くの隊長がを欲しがったと言う。 そんな中、運が物凄く良いのか、我がクルーゼ隊にが配属された。 お陰で俺達パイロットは安心してMSに乗れる。 そして、そんな腕のいいに俺は空調の修理を頼んでいる。他の隊に知れたら物凄く文句を言われそうだ。 カンカンとレンチでその周辺を叩いているを見た。 「なに?」と視線を感じたらしいが見上げてくる。 「いや...けど、が見てもわかんないんだったら..故障じゃないってコトか?」 はもう一度時計を見た。 今、艦はプラントの港に詰めているので、艦内の整備士の夜勤は無いらしい。 つまり、今勤務中の誰かに声をかけて見てもらうことが出来ない。勿論、外に出ればいると思うがそこまですることでもない。 「明日..だと遅い?」 「いや、まあ...いいけど」 「てか、ミゲルの部屋に行ってみて良い?」 「構わないけど」と言うと「んじゃ、そっちを見てみたい」とが周囲においていた道具を腰から提げたバッグに仕舞い始める。 部屋の中、多少綺麗にしていて良かった、と本気で思った。 もしかしたらこの部屋の方に原因があるかもしれないと思ってさっき片付けたばかりだ。 「おやおや、意外と綺麗に整頓されてるじゃない」 「『意外』は余計」 そう返すと「それは失礼」とは芝居じみた仕草で頭を下げる。 持ってきた脚立に上る。その脚を押さえると「気が利くじゃない」とは笑う。 「お前が仕事できなくなったらザフトの大きな損失だからな」 俺が言うとは笑う。「そうよねー」と。 「なあ、『謙遜』って言葉知ってるか?」 「ミゲルの声が下から聞こえるのってちょっと新鮮」とは笑って俺の問いには答えなかった。 「こっちも異常ない...」 そう言っては脚立から降りる。 「リモコンは?」 「ああ、これ」 渡した途端「わー...」とは遠い目をした。 「どうした?」 「この設定だと、どうやったってムリですよー」 言われての手元を覗き込む。 「あ...」 何で俺気付かなかったんだろう... 「ごめん」 無駄にの時間を費やさせてしまった。 しかし、はカラカラと笑う。 「いやいや、ミゲルって普段は後輩たちの面倒を見たり、先輩達に気を使ったりと見事な中間管理職的なポジションをこなしてるけど、偶に抜けてるよね」 返す言葉が無い。 「けど、そういうトコも好きだなー」 の言葉に思わず「え?」と聞き返した。 「あら、聞こえなかったの。残念」 肩を竦めたは来た時と同じように脚立を肩に掛けて部屋を出ようとする。 「ちょ、待った!」 「何?」と振り返ったの脚立が俺の側頭部にクリーンヒットした。思わず膝をついて側頭部を押さえる。 「あ、大丈夫?」と彼女もひざをついて顔を覗きこむ。 「わざとだろう...」 唸りながら言うと「ご想像にお任せしまーす」とが笑う。 俺は思わず舌打ちをして、「ま、これも惚れた弱みってやつだな」と呟く。 チラとを見ると、今まで見たことのないくらい、可愛らしい顔をしていた。 床に手をつき、との距離を縮める。 「、可愛い顔してるぞ」 顔をじっくり眺めながら言うとは勢い良く立ち上がり、「お大事に!」と言い放って足早に部屋を後にしていった。 あんな素直じゃないところも、俺の好みだったりする。彼女はそれに気付いていないんだろうなー... 次の顔を合わせたときにどんな反応をするか少し楽しみになってきた。 |
桜風
11.5.1