14. 目一杯、背伸び中





クラクションの音がして振り返ると待ち人が来たことが分かる。

滑り込むように助手席に座った。

「すんません、道路が込んでて」とすぐに謝られた。

「いいよ、そんなに待ってないし。気にしないで」

苦笑してが言う。

「今日、どうしようか」とが話題を変える。

久しぶりに会えた。行きたいところ、聞かれれば沢山あるが、とりあえず相手の意見を聞くことにしている。

は多趣味だから結構いろんなことに興味を持っていて大抵の場所は平気だ。

さんは、どこか行きたいところとかあるんスか?」

聞かれて「そうねぇ...」と考える。

「ベタなデートスポットってところに行ってみたいんだけど」

しかし、赤崎はそれなりに有名人である。

ムリだろうな、とはすぐにその希望をキャンセルしようと思った。

「いいっスよ」という返事が来るまでは。

「え?良いの?」

「いいっスよ。けど、東京から出て良いっスか?」

「それは全然...うん」

いいのかな、本当に...

そう思いながらも本人が良いと言っているのだから、良いのだろうと切り替えた。


赤崎が選択したベタなデートスポットは東京近郊のテーマパークだった。

たしかに、『ベタ』だ。

しかも、ここはマスコットが人気なので有名人が居てもあまり違和感が無いとテレビで言っていた。

なるほど。考えたなぁ...

「まあ、人が多いのが難点ですけど」

車を止めて赤崎が言う。

確かに、人は多い。

「大丈夫。此処なら雰囲気で楽しめるし」

赤崎はの言葉にほっとした表情を見せた。

「チケット買ってきますね」と言って駆けて行った赤崎の背中がぐんぐん小さくなる。

軽く走っているだけのはずなのに。やはりプロは違うな、と感心しているとすぐに戻ってきた。

「行きましょうか」と声をかけられて手を差し出される。

このとき、いつも赤崎はこちらを見ることをしない。

おそらく照れくさいのだろう。

手を繋いで少ししたら普通になるが、5分くらいはこんな感じに素っ気無い。

しかし、はそれが好きだったりする。

赤崎は高校を卒業してすぐにプロになった。

プロサッカー選手ということはいつも勝負の世界だ。

年齢よりも大人びているところが多々ある。

逆に、自分の方が子供じみていたり...

何となくそんな時は悔しい思いをしているのだが、こんな可愛い反応をされると安心するのだ。


「雰囲気で楽しめるって言っても、やっぱ、何かアトラクションとか...」

そう言って赤崎が声をかけてきた。

「うん、じゃあ...」と言っては困った。

いろんなことに興味があるとは言っても、このテーマパークについては良く分からない。

「苦手なものってありますか?」

「え?」

不意に声をかけられては聞き返す。

「スピード系は苦手だとか、高い所はちょっと、とか」

「ああ、うん。そういうの全くない」

「なら」と言って赤崎が手を引いて歩き出す。

赤崎のナビで思いの外多くのアトラクションを楽しめた。

「赤崎くん、凄いね」と声をかけると「普通っスよ」と返されてちょっと面白くない。

それでも、楽しませようとしてくれたその姿勢はとても嬉しいし感謝している。

最後はやっぱり「観覧車、だめ?」と聞いてみた。

何となく、締めはアレだろう。

ご飯を食べに行ってデザートを最後に食べるように。

「...いいっスよ」

「高い所ダメだったら全然良いんだけど...」

返事の間が気になって言うと「いや、別に。ちょっと並ぶと思いますけど。大丈夫っスか?」と返された。

「それは、全然気にならない」と返すと「じゃあ、行きましょうか」と赤崎が手を引いて歩き出す。

赤崎の言ったとおり、結構な時間並んだ。

だが、一緒に乗る人が居るのでそれは気にしない。話をしていたらあっという間だし、赤崎も会話が苦手というわけではないので待っている間ずっと話をしていた。

やっとゴンドラに乗り、外の風景を楽しむ。

ふと、赤崎を見ては反省した。

ああ、やっぱり苦手だったのか...

赤崎は自分が苦手なものも「平気」というクセがあるらしく、今までそういうのを何度か目にしたのでいい加減表情で分かる。

おそらく、にそういった自分の弱点を見られたくないのだろう。

「何スか?」

「ううん、何でもない。今日はありがとう。楽しかった」

ニコリと微笑むと赤崎も硬い表情で笑みを返す。

目一杯、背伸び中。

そんな赤崎がとても可愛いと思っているのだが、それはさすがに本人には言えないのでは微笑んで誤魔化した。









桜風
10.11.1