15. 見えない角度で手を握り締め





学校に着いたら達海の噂で持ちきりだった。

噂、といっても「やっぱりアイツスゲーな」とか「まあ、達海だしね」というもので、結局その噂の話題は何か、というのは教室に入るまでは分らなかった。

「おはよう」と教室のドアを開けてクラスメイトに声をかけ、一体達海の何が噂されているのか、と聞く。

「あいつ、プロのスカウトが来てるんだよ」

なるほど、だから『達海だし』なのか...

あたしは納得して自分の席に向かった。

始業のチャイムギリギリで達海がやって来る。

隣の席についた達海に、

「あんた、スカウトだって?」

と声をかけたら、達海は目を丸くした。

「何でが知ってんの?」

きょとん、と達海が聞き返した。

「朝からすっごい噂だよ?」

「マジで?はー、俺って、ホントにスゲーなー」

「あんたのその鼻持ちならないところは、ホント、プロ向きかもね」

呆れて言うと「あんがと」と返された。


達海がピッチで汗を流している間、あたしは受験と言う試練に立ち向かっていた。

どうしても行きたい学校があったのだ。

親を説得し、担任を説得して何とか受験をさせてもらうことまでは出来た。

あとは、自分の努力次第。

「あれ?珍しいなー」

「どっちが」

教室で勉強をしていると達海が入ってきた。3年はもう授業がないから学校に来ること自体が珍しい。

「俺は、練習」

「スカウトしてきたチームでやらせてくれないの?」

「そりゃ、まだ早いって」

苦笑して達海はあたしの席の前に座った。

「難しいところ?」

「うん、皆が無理って言った」

「皆、ねぇ...けど、は言わないんだろう?」

「あたしが言ったらお終いじゃない」

笑って返すと達海も「だよな」と笑う。

「ま、根性で何とかするよ」

そう言うと達海は呆れた表情を浮かべて

「俺、根性論ってきらーい」

と言う。

「嫌いでも、最終的にうまく行けば何だってオッケーじゃない?」

「ま、そーだけどさー」

肩を竦めて達海は天井を見上げた。

「あとちょっとだなー」

「ん?ああ、高校生活?達海、悔いのない高校生活を送れたんじゃない?卒業後の進路も、自分の希望通りなんでしょう?」

「まあねー。けどあとちょっとあるから、その間に悔いなんてものが見つかるかもしれないね。でも、俺って過去に拘らないから。ほら、前向きな性格だし」

そんなことを言う。

「前向きって言うか、記憶力がないだけなんじゃないの?」

からかうと「どーだろーねー」と適当に返された。



高校を卒業するときには、まだあたしの進路は決まっていない。

けど、ベストは尽くした。



クラスメイトと話をしていると達海に声をかけられる。

先ほどまで後輩だかクラスメイトだか、同級生だかにサインを求められ、多くの人に囲まれていた彼はやっと脱出したようだ。

しかし、あたしと話をしていたクラスメイトに再びサインをねだられてそれに応えている。

「もうサインなんてもん、あるの?」

「適当に名前を書いてるだけだけどね」

「あんたがそういうのに応じるとは思えなかった」

「クラブからの指示」

クラブ?ああ、プロチームのことかな??

「大変ね」

「俺が行くクラブは、特に地元密着型でサポーターを大切にしてるからね」

何となく、達海に合ってるチームのような気がした。

「で、の根性の結果は?」

「まだ出てないの。宙ぶらりんで卒業」

そんな話をしていると写真を撮ろうと声をかけられた。達海と撮りたいと言う他のクラスの友人の下心が見えて達海に視線を向ける。

「サポーターは大切にするクラブなんだ」

そういわれてあたしも頷き達海と並んだ。

トン、と彼の手にあたしの手が触れる。

自然と、お互いがその手を握った。くっついているし、丁度前で中腰になっている人の頭に隠れるから写真には写らない。

「オッケー、撮れたよ」

シャッターを切ってくれた友人の言葉と共にあたし達の手も離れた。

「んじゃ、達海。頑張って」

「んー、も。得意の根性で頑張れよー」

そう言ってあたし達はそれぞれの道へと向かった。









桜風
11.9.1


ブラウザバックでお戻りください