18. 雷の日のお迎え





稲光。その後に轟音が続く。

空を見上げたは口の端を上げた。

懐かしい...

久しぶりにそこに向かうことにした。


魔界での雷なんて珍しいものではなく、日常的な風景のひとつだ。

これで、雪とか雨とか降れば『珍しい』の分類に入るのだろうが、とりあえず、今は雷だけだ。

魔界の森を駆けて、そしてその先にある岩場に向かった。

見慣れた光景の雷で思い出したのだ。だから、何となく行く気になった。

そこは昔気まぐれに自分を拾ってくれた人と出会ったところだった。

恐ろしい、魔界では名の知れた盗賊。妖狐蔵馬。

自分がまだ弱くていつ死んでもおかしくないとき、蔵馬が拾った。

既に死に掛けて、とても汚らしい格好だったのにひょいと拾われたのだ。

周囲が驚きの声をあげ、自分もとても驚いた。

理由は結局最後まで教えてもらえなかった。


蔵馬と別れたのは、いつだったか。

ああ、そうだ。仕事に出たんだ。

蔵馬たちが仕事に出て、戻ってこなかった。

戻ってきた一人は瀕死の重傷で、霊界の特別防衛隊とか何とかいう名前の組織に深手を負わされた、とだけ聞いた。

その後、蔵馬の姿を魔界で見ることはなかった。

でも、きっと蔵馬は死んでいないと思っている。少なくとも、は。

岩場に出た。

すると、赤い髪の男が立っている。男、だと思う。ちょっと自信がない...

あれ?とは首を傾げた。

不思議な雰囲気だ。

一瞬、蔵馬に見えた。でも、見間違えようのないくらい似ていない。

どういうことだろう...

「あの、」と声をかけてみた。もちろん、臨戦態勢で。

振り返った男は目を丸くして「...?」と呟く。

あれ?知り合いにこんなひょろっこいの居たっけ??

は再び首を傾げた。

「ああ、そうか。これでは気が付かないか」

男の雰囲気が突然がらりと変わった。

自分の知っている、冷たい、肌が痺れるようなあの雰囲気。

「蔵馬様?!」

頓狂な声を上げたに蔵馬は苦笑した。

「あれ?変身能力でもお持ちになったんですか?!」

の言葉に再び蔵馬は苦笑した。

あ、でも。雰囲気変わったな...

は何となくそう思った。

「いいや。変身能力と言うか...」

少し説明が面倒だな、と思いながら蔵馬はあれからの話を聞かせてくれた。

「ああ、黄泉さんとも会ったんですね」

「黄泉のこと、知っていたのか?」

「はい。蔵馬様の居場所を聞かれましたけど、あたしは本当に知らなかったので放って置かれました。怖くない存在だから、って。黄泉さんの勢力に誘われましたけど、断りました。殺されるかとも思ったのですが...」

の言葉に少し驚いた表情を浮かべた蔵馬は「そうか」とだけ返す。

は、何故此処に来たんだ?」

「ふと目に入った雷で何となく此処を思い出したからです。こちらにお帰りになられないのですか?」

「まだ、な」

蔵馬の言葉にしゅんとうな垂れる。

そんなに慕われるような人格者でもないのにな、と蔵馬は不思議そうにを見下ろす。

「まあ、遠くない未来に、また戻ってくることになるだろう。この人間の体の寿命はそう長くない」

その言葉にの表情が曇る。

「どうした?」

「蔵馬様が少し寂しそうにされたので...」

言われて初めて気が付く。

そうか、自分は意外にも『寂しい』と思っているのか...

ピピッと音が鳴った。

はビックリして周囲を警戒する。

「ああ、時計だ。人間界のものだ」

そんな時間か、と呟きながら蔵馬は先ほどの赤髪の男に戻る。

「じゃあ、また来る」

「お戻りになれるときには、必ずお迎えに参ります」

の言葉に「ああ」と返事をして蔵馬は人間界へ繋がっている方角を見上げた。

「それまで、死ぬな」

「はい!」

蔵馬が駆けてあっという間に小さくなった。









桜風
10.10.1