20. お守り代わりにそっと





家に電話があった。

「もしもーし」と出ると切羽詰った声で「どうしよう、石神さん」と言われた。

声の主はで、自分の高校時代の後輩だ。

「どうかした?」

多少焦りもしているが、元々マイペースな石神はそこまで慌てない。

返事がなくてもう一度「どうかしたのか?」と聞いてみた。

『電車が止まってる!!』

「は?!」

さすがに声を上げてしまった。

「どういうこと?!」

『人身事故とか何とか...』

「でも、電車が止まったなら遅延証明くれるんじゃないのかな?」

『え、そうなの?でも...』

こりゃ、行ってやったほうが良いな...

「何処の駅?」

聞かれたは自分が立ち往生している最寄り駅の名前を口にした。

「んじゃ、そこからちょっと離れたところにホテルあるよな?」

ホテルの名前を口にすると

『えーと..あった!』

「そこの前にいること」

『え?!』

「いい子にしてること、いいな?」

そう言って石神は受話器を置いて車のキーを手にして家を出る。

丁度地元に戻っているときでよかったよ...

そう思いながら車を走らせた。



良く分からないが、石神が言ったとおりにホテルの前に立っているとクラクションが鳴らされて見てみると石神が手を振っている。

「乗りなー」

目を丸くして固まっていたは、石神の声にハッとして車に駆け寄った。

「ど..どうしたんですか。これ」

「俺の愛車。助手席に乗せるのはが初めてだかんなー」

からかうように言われては俯く。

「ま、俺がこっちに戻ってきてるときでよかったな」

「そういえば...」

そこまで考えていなかった。ただ、自分にとって、石神はヒーローだったから困ったとき浮かんできたのはこの飄々とした石神だったのだ。

「すみません、折角のお休みに」

しょぼんとしたの頭を石神は乱暴になでる。

「わあ」と声を上げて驚くを笑う。

「ま、可愛い後輩に頼られるのも悪くないってね」

今日はにとって大切な日だ。

今日の試験の結果如何で、人生が決まると言っても過言ではない。


「ついたぞ」と言われてドアに手をかけての動きが止まる。

「おーい、遅刻したら拙いでしょう。俺が遅延証明出すわけにも行かないんだし」

見るとの手が震えている。何だ、緊張でもしてるのか。

「緊張してんの?」

「らしくない、って笑いますか?」

振り返ったは涙目だった。

「ははっ。いやいや、可愛いなー」

からかわれた、と少しムッとした表情を見せたに石神は苦笑した。

「んじゃ」と言って石神が体を伸ばしてくる。

見上げていたは驚いて目を瞑ると、そっとおでこにキスされる。

「これでオールオッケー。な?」

ニッと笑って石神が言う。

目をぱちくりとしては苦笑した。

「えー..と?」

「何だよー。俺がキスしたんだからきっと大丈夫だって!」

ムキになってそう返す石神に「...そうですね!」と言い直してが笑う。

「じゃ!行って来ます!!」と敬礼をして車から出て会場に向かって駆けていく。

「がんばれよー」

「はーい!」

「けど、ダメでも俺がいるからなー」

「勝負の前に何言ってるんですかー」

笑いながらそう返したはブンブンと手を振って今度こそ会場の人ごみの中に消えていった。

「ま、そうだなー」

苦笑して石神はアクセルを踏む。

たぶん、次に会うときも彼女は笑顔だ。間違いない。元々彼女は努力家だった。だから、此処にくるまでに彼女なりの最大限の努力をしているはずだ。

「それに、意外とご利益あるんだぞー」

そう呟く石神は笑みを零していた。









桜風
11.1.1