| きつい日差しの中、はえっちらおっちら自転車を漕いでいた。 「あつい...」 先ほどから口から漏れる単語はただひとつ。 それを繰り返して言うものだから余計に暑く感じる。 自転車置き場に自転車を置いてまずは体育館。 数週間前までバスケ部のマネージャーをやっていた。 選手は残ったが、さすがに高校3年生の夏以降を部活に費やすことが出来ないは一足先に引退させてもらった。 引退させてもらったが、結局気になってこうして顔を出して数週間前まで毎日やっていたことをしている。 「引退の意味ないんじゃないのか?」 からかうようにキャプテンに言われた。 「好きなんだからしょうがないでしょ!」と返すと彼はどこか嬉しそうに笑う。 彼らみたいに一芸に秀でていれば推薦とかいう選択肢もあるのだろうが、残念ながら秀でている一芸がにはない。 「お疲れ様ー」と体育館の中に声をかければ後輩たちは礼儀正しく挨拶をしてきて、同級生どもは「よー、暇人」とかいう。 「うるさい!」と返して置いてあるタオルやらボトルやらに手を伸ばした。 「手伝うよ」と声をかけてきたのは副キャプテンの花形でそのまま一緒に流しに向かう。 タオルはオンボロ洗濯機に突っ込み、スタートボタンを押す。このオンボロ洗濯機には本当にお世話になったものだ... 「花形たちがここ卒業して、バスケ部に何か備品を購入してあげようとか思ったらまずは全自動洗濯機ね」 昨冬にが真顔で言ったことがある。 キャプテンの藤真はぽかんとし、高野は笑った。笑った高野をたしなめる永野もどこか笑っていて、長谷川はそんな彼らを見て苦笑していた。 そして、花形だけは「そうだな、大変だもんな」と頷いてくれた。 そう、大変なのだ。水周りの仕事の負担は出来れば軽減してほしい。それが出来ればマネージャーだってきっと増えた。 結局、3年間マネージャーを務めることができたのはだけで、数ヶ月とか長くて1年。マネージャーとして共に翔陽高校バスケ部に所属していた仲間は居るが、どうしても続かなかった。 まあ、続かなかった原因のひとつに部員達、とくに自分の同級生のデリカシーのなさがあるのだろうが、それを本人達に伝えてもどこ吹く風で腹が立つのでいわない。 勿論、例外もいて、マネージャーが続けなかった原因のひとつを訴えると、例外の方が気に病みそうなので言えなかったのだ。 「。ここで良いか?」 「うん、ありがとう」 「こっちこそ、いつも悪いな」 1年にさせれば良いと言うが、やっぱり気になって顔を出してしまうのだから手伝える範囲で手伝うとが申し出た。 そのまま1年は安心して部活に集中しているらしいが、さすがに夏休みが終われば本当のスパートをかけなくてはならないのでは顔を出すことは出来ない。 彼らはそれがわかっているのだろうか... 指摘してあげても良いのだが、気付かない方が悪いとばかりには勿論、残留した3年は口を出さないことにしているようだ。 「ね、午後勉強教えて。疲れてるところ悪いんだけど」 は午後になると学校の図書館で勉強をする。 ここなら分らないところがあれば出勤している教師を捕まえて質問が出来るし、クーラーが効いている。 家だとどうしても様々な誘惑があるので結局勉強が捗らない。 市内の公立図書館は今夏休みでお子様達がお騒ぎ遊ばされているはずなので集中できないだろうと思っている。 結果、登下校が面倒だが、学校で勉強するのが一番効率が良いという判断となった。 「ああ、勿論。が居てくれて助かっているんだ。ありがとう」 「ううん、こっちこそ。花形のお陰でこれまで勉強をしてこなかったツケをガンガン返済できてるから助かってる。ありがとう。お互い様だよ」 が言うと花形は苦笑して「そう言ってもらえると助かるよ」と返す。 「おーい、続き始めるぞー」 体育館から藤真の声がした。 「ああ!」と花形は返し「じゃあ」とに声をかけてその場を離れる。 「うん、がんばってー」 があまり気合の入りそうにないトーンでそう言いながら手を振ると花形が振り返った。 「俺、のその『がんばってー』って好きだよ。ありがとう」 そう言って体育館へと向かっていった。 藤真たちからは大ブーイングの気が抜ける『がんばってー』であるが、どうも花形のお気に入りらしい。 何だか嬉しくなったは「がんばってー」ともう一度呟いた。 |
桜風
11.7.1