26. 惚れた欲目を差し引いても





バスに乗っていると街から少しはなれた場所に小ぢんまりと建っている教会が目に入った。

「あ」とが呟く。

「どうしましたか?ああ、結婚式」

隣に並んで座っている颯斗が声をかけてきた。

遠目から見ても祝福ムードが伝わってくる。

「花嫁さん、綺麗だね」

言われて颯斗はじっと目を凝らす。そこまで視力が悪いわけではないのだが、良く見えない。

「見えますか?」

「ううん」

颯斗の質問には首を横に振り、その反応に彼は首を傾げた。

「見えないけど、きっと綺麗だよ。それに、あんなに皆に祝福されてる。幸せだよ、きっと」

窓の外を眺めながらが答えた。

「そうかもしれませんね」

の横顔を眺めて颯斗が言う。

彼女がこんな表情をしているのならあの花嫁さんが実際どうだろうと、別に構わない。

でも、幸せでなかったらがっかりすると思うから花嫁さんはの笑顔のためにも幸せになってもらいたいものである。


教会が見えなくなるとやっとが座りなおして前を向く。

颯斗としてはやっと愛するの顔が見られるようになった、といったところだ。

さんも結婚式には憧れがあるんですね」

「まあ、女の子の憧れでしょうね。一般的にも」

恥ずかしいのか、最後に『一般的』という言葉を付け足して彼女は頷く。

「そのときのさんの隣には、誰が立っているんでしょうね」

少し寂しげな瞳で颯斗が言うと「こら!」とが言う。

彼女に視線を向けるとぷくっと膨れている。

「颯斗くん、今の言葉は本気?」

「...いいえ」

首を横に振る。

それをみては目を細めた。「よろしい」と頷く。

そんなの反応が嬉しくて颯斗は笑う。

「何笑ってるのよ」

「いいえ。そうですね、僕はきっととても幸せです。あの花嫁さん以上に」

先ほどが『幸せ』と見た彼女以上に自分は幸せだ。

こうして、自分の愛する人が隣に居て、それが当たり前と彼女は言う。それが、この先であっても。

彼女の言うとおりの未来にならないかもしれない。

そうであっても、自分は諦められるだろうか。

諦めることに慣れて、そのくせ、憧れた赤い糸の物語。

「僕は、諦めを受け入れることが出来なくなりました」

口の中でそう呟く。

ふと、隣が静かになった。

いつも彼女はたくさんの話題を口にする。

異性の話題だったときは結構不愉快になるのだが、それ以外は彼女がどんなに話し続けても颯斗は楽しく聞くことが出来る。

好きな人の声だからだろうか...

さん」

窓の外を眺めている様子のの名を呼ぶ。

しかし、どうやら彼女は寝ているようだ。

傍にいて彼女は安心したように眠ってしまう。

せっかく一緒にいるのだから、と最初の頃は少しつまらないと思っていたが、しかし最近になって彼女が安心できる場所が自分の隣だと気がついてそれがくすぐったく、嬉しかった。


「いつかのその日。どうかあなたの隣に立つのが僕でありますように」

惚れた欲目を差し引いても、きっとその日には彼女が世界で一番可愛らしいと思う。

まだ数年先になるであろう、誓いの日を思い浮かべて颯斗は隣で眠ってしまったの薬指にそっと口づけた。









桜風
11.6.1