| ドアを開けて家の中に足を踏み入れる寸前に一度足を止める。 軽く溜息を吐いて足を踏み入れた。 玄関に靴は無い。 だが、気配がある。 「...まったく」 呟きながらリビングに向かった。 この部屋のセキュリティは完璧だ。何処の誰とも知らない者が足を踏み入れることなんて出来ない。 だから、この家に入ることが出来るのは自分。そして、もうひとり... ネクタイを解いてリビングのソファに投げようとして手が止まる。 「今日はこっちか」 。永田が唯一この家に入ることを許している人物でだ。 確かに、家に入ることは許しているが、必ず自分のいないときに忍び込む彼女に多少困惑してはいる。 何故、自分が家にいるときに訪ねてこないのだろうか... まあ、大抵仕事で家に居ないので文句を言うとそれを指摘されるのが分かっている永田は口にはしない。 仕方ないので、部屋に戻って服を着替えてリビングへ戻ってきた。 コーヒーを淹れながらソファで寝ているの様子を見る。 規則正しい呼吸..を試みているが少し失敗している。 これまた珍しい。 彼女がこの家の中で寝ているときは大抵本気で寝ている。狸寝入りは初めてだ。 さて、どうしようか... とりあえず一息つくことにした。 彼女の分も作るべきか悩んだが、寝ているフリをしている彼女をもてなすわけにはいかない。 コーヒーをマグに淹れて彼女の寝ているソファの傍に移動した。 彼女の顔を覗きこんでみると顔を背ける。 噴出しそうになったのを堪えて、コーヒーを一口。 彼女の顔を眺めながらゆっくりコーヒーを味わっていると居心地悪そうに彼女が身じろぐ。 この瞬間に起きた、という体で起きようとは思わないのか... クツクツと笑い、面白いがそろそろ起こすかとマグをテーブルの上において彼女の顔を覗きこんだ。 「」 名を呼ぶと彼女はくすぐったそうに肩を竦めた。 彼女の頬を優しくなで、「起きたらどうだ?」と声を掛ける。 少し待ってみたが、狸寝入りは続行らしい。 ならば、と永田も本気を出す。 膝をつき、の耳元に唇を寄せた。 何事か永田が呟くとは文字通り飛び起きる。 「な..何?!」 「おはよう」 ニコリと微笑む永田は真っ赤になったを満足そうに眺める。 「次、寝たフリしたら実行するからな」 いつもより低い声で宣言する永田にはコクコクと頷く。 「さて、コーヒーでも飲むか?」 「わたしが淹れる」 「...美味いコーヒーが飲みたいんだがな」 そう返されたはグッと詰まるが、「愛情たっぷり入れるから!」と返した。 「それは、楽しみだな」 愉快そうに言う永田を背に、は逃げるようにキッチンに向かった。 |
桜風
11.1.1