| 日は随分前に落ち既に空には星が散りばめられている。 「この蒸し暑さ、どうにかなんないのかしら...」 この国の夏と言う季節は過ごしづらい。 仕事帰り、アパートの近くのコンビニに足を向けた。 迷わずカクテルの陳列してある棚の前に立って物色し、ついでにアイスコーナーで少し奮発してパフェアイスを手にとってレジに向かう。 会計を済ませて店の外に出ると先ほどと同じ不快感に眉間に皺を寄せた。 てくてくと歩きながら空を見上げる。 ここ最近の忙しさのお陰で夜空を見上げることを忘れてしまっていた。 とはいっても、都会と呼ばれるここでは見られる星なんて本当に数えるくらいしかない。 星を見上げると思い出す人物がある。たぶん、普段星を見上げないのは会いたくなるからだろう。 会いたいと思っても会えなければ寂しいだけだ。 「足元、ちゃんと見ろよ」 不意に背後から声をかけられては驚いて振り返る。 「一樹?!」 「よう、久しぶり」 軽く手を上げて彼は笑った。 不知火一樹とは大学で知り合った。 が星空を見上げるようになったのは彼がきっかけだ。彼はどうやら星に詳しく、神話にも精通していた。 最初は女を口説くためのツールなんだろうなと思っていたが、どうも本気で星が好きらしい。 以前、噂で聞いたことのある『星月学園』が彼の母校だとか。あそこは本当の星好きでなくては入れないし卒業も出来ないほどの専門的なカリキュラムだとか。 それを聞いてから彼の話が楽しくなった。何より、星空を見上げる彼の表情が好きだった。 そして、彼と付き合い始めた頃には就職活動で忙しくなり、結局そんなにデートも重ねていない。 それでも、『付き合っている』と自信を持って言えるのは彼の意外なまめさなのだろうなと時々思う。 「おーい、どうした?ああ、そうか。俺に会えて嬉しかったんだなー」 ニヤニヤと笑いながら不知火が言う。 「うん、そうですよー」 適当に返すに不知火は苦笑した。 「久しぶりだな、」と不知火が改めて言う。 「うん、久しぶり。浮気してなかった?」 からかうように言うと「ばーか」と返された。 それから並んでのアパートへの道を歩く。 「それで、今日はどうしたの?」 大抵、不知火が夜中に会いに来るときには連絡がある。 「今日は要らないだろう、連絡」 何か元々約束していただろうかと少し慌てた。 「今日は、何の日だ?」 何の日... 暫く悩んで唸っているに不知火は苦笑した。 「星逢いの日だろう?」 「なに、それ」 星逢いなんて単語、初めて聞いた。 「あれ、メジャーじゃないのか?七夕って言ったらさすがに分かるだろう?」 「あ、そか」 目を丸くしてが呟く。 そうか、今日は七夕だ。 「星逢いって言うんだ?何か素敵じゃない」 の言葉に「だろう?」となぜか不知火が得意になる。 「だから、恋人同士の俺達は態々連絡を取る必要が無いと言うことだ」 「天の川もないのに?」 が茶化すと「いいだろ。お前はもっとロマンってものを大切にしろ」と返された。 「しかし」と不知火が呟く。 「なに?」 「彦星はよく1年に1度で我慢できるよな」 「実は隠れてこっそりデートでもしてるんじゃないの?」 「天の川にカササギの橋がかかるのが今日だろう?」 そんな神話だったっけ? そんなことを思いながら、「一樹なら我慢できるの?」とが問う。 「できない。んなもん、出来るはずがないだろう。出来ることなら毎日でもに会いたい。1日でも声を聞けなかったら禁断症状が、ほら」 そう言って腰を屈めてキスをした。 「一樹、禁断症状はともかく。モラルは必要でしょう」 公道でキスをするなと言いたいらしい。 「これでも我慢してるんだよ」 拗ねたようにいう不知火に苦笑して、 「よし、ウチまで後ちょっと。走っちゃおうか」 とが言う。 「何だ、お前も我慢できなかったんじゃないか」 と不知火がからかえば 「そこ、指摘しない!」 とが指さして怒ったフリをする。 「へいへい」返した不知火は「ほら、急ごうぜ」との手を取って駆け出した。 |
桜風
11.7.1